ベアリング
コラム
ベアリングの選び方(その7)~「ベアリングの周辺部品」~
- #2 ベアリングの選びかた
ベアリングの選び方(その6)では、「ベアリングの潤滑」をご紹介しました。
今回は、「ベアリングの周辺部品」の検討内容をご紹介します。
表1に選んだベアリング形式の確認項目を示します。
設計する機械の性能を確保するためには、使用条件に応じたベアリングの周辺部品の設計をすることが重要です。
また、ベアリングの取付けと取外しなどの保守点検コストを含む経済性を考慮することも必要です。
表1 選んだベアリング形式の確認項目
順番 | 検討項目 | 主な確認内容 |
---|---|---|
① | ベアリングの形式 | かかる荷重の方向と大きさから選び、取付けスペース(空間)に収まる |
② | ベアリングの配列 | 1本の軸に2個(以上)のベアリングを使う |
③ | ベアリングの寸法・寿命 | 寸法・寿命が要求を満足するか |
④ | ベアリングの許容回転速度・回転精度、はめあい、内部すきま | 機械に必要な回転精度・剛性を満足するか 寿命を満足するはめあいと内部すきまであるか |
⑤ | ベアリングの予圧と剛性 | 機械に必要な剛性を満足するか |
⑥ | ベアリングの潤滑方法 | ベアリングが長期間安定して回転できるか |
⑦ | ベアリングの周辺部品 | 周辺部品の構造 <今回のコラムでご紹介します> |
⑧ | ベアリングの取付けと取外し | 機械の保守・点検が簡単にできるか |
ベアリングの周辺部品の検討として、次の内容についてご紹介します。
- 軸およびハウジングの設計(公差と粗さを含む)
- ベアリングの取付け関係寸法
- 密封装置
ハウジングとは - ベアリングの仕組みって?~摩擦を減らす構造と部品の役割~
1. 軸およびハウジングの設計
表2に示す軸とハウジングの設計での注意事項をご紹介します。
なお、経済性も考慮して総合的な観点から設計することが必要です。
表2 軸とハウジングの設計での注意事項
No. | 検討内容 | 注意事項 |
---|---|---|
1 | 軸の形状・寸法 | 変形・たわみを抑える |
2 | ハウジングの形状・寸法 | 変形を抑える |
3 | 軸とハウジングのはめあい面の粗さ | 適切な公差と粗さ |
4 | 軸とハウジングの隅の丸み | ベアリングの面取り寸法よりも小さく |
5 | 軸とハウジングの肩の高さ | かかる力を支え、ベアリングの取外しが容易 |
6 | 軸の取付け用ナット・ねじ | 適切な直角度 |
7 | 割り(分割)形ハウジング | 合わせ面の形状と粗さ |
1) 軸の形状・寸法
軸はできるだけ太く短くし、運転時にかかる力によって軸に大きな変形やたわみによってベアリングの寿命が低下しないようにします。半径方向の取付けスペースに制限がある場合には、幅の広い(幅系列2以上)ベアリング、または複列ベアリングを選ぶことも有効な方法です。
詳しくは、
ベアリングの選び方(その1) 「ベアリング選びの順番」と「形式」
をご覧ください。
2) ハウジングの形状・寸法
剛性のあるハウジングにして、運転時にかかる力によるハウジングの変形でベアリングの寿命が低下しないようにします。軽合金(アルミニウム鋳物など)製ハウジングでは、鋼製ブッシュをはめて剛性をもたせます(図1参照)。
図1 軽合金製ハウジングの例
<注意>
軽合金製ハウジングの膨張係数はベアリングと大きく異なるため、注意をして はめあい を選びます。
3) 軸・ハウジングのはめあい面
軸・ハウジングのはめあい面は、必要な公差や粗さを適用します(表3を参照)。
また、肩の端面は軸心やハウジングの内径面に対して直角に仕上げます。
仕上げ加工は、一般には旋削とします。しかし、回転の振れや音響などに厳しい要求がある場合には、研削とします。
表3 軸・ハウジングの公差と粗さ(推奨)
項目 | ベアリングの等級 | 軸 * | ハウジング * |
---|---|---|---|
真円度公差 | 0級、6級 | IT 3 ~ IT 4 | IT 4 ~ IT 5 |
5級、4級 | IT 2 ~ IT 3 | IT 2 ~ IT 3 | |
円筒度公差 | 0級、6級 | IT 3 ~ IT 4 | IT 4 ~ IT 5 |
5級、4級 | IT 2 ~ IT 3 | IT 2 ~ IT 3 | |
肩の振れ公差 | 0級、6級 | IT 3 | IT 3 ~ IT 4 |
5級、4級 | IT 3 | IT 3 | |
はめあい面の粗さRa(μm) | 小形 ベアリング |
0.8 | 1.6 |
大形 ベアリング |
1.6 | 3.2 |
[備考]
*基本公差ITの数値については、こちらをご覧ください。
4) 軸・ハウジングの隅の丸み
軸・ハウジングの隅の丸みの半径(ra)は、ベアリングの面取寸法よりも小さくします。一般には単純な円弧状としますが、研削仕上げの軸では、逃げを設けることがあります(図2参照)。
図2 隅の丸みの半径
ベアリングの面取寸法よりも大きな隅の丸みの半径(ra2>ra)とする場合には、間座(かんざ)を入れます(図3参照)。
図3 肩とベアリングとの間に入れる間座
5) 軸・ハウジングの肩の高さ
軸・ハウジングの肩の高さは(h)は、ベアリングを容易に取外しできるように決めます。軸の肩径は内輪外径よりも小さく、ハウジングの肩径は外輪内径よりも大きくします(図4参照)。
図4 軸・ハウジングの肩の高さ
6) 軸の取付け用ナット・ねじ
アキシアル荷重を受けるまたは予圧を与える場合には、軸に取付け用ナットまたはねじで締付けます。これらのナットまたはねじは、軸に対してできるだけ直角になるように仕上げます(図5および6参照)。
図5 軸の取付け用ナット
図6 取付け用ねじ(エンドプレートを締付ける)
7) 割り(分割)形ハウジング
割り(分割)形ハウジングでは、その合わせ面の内径側に逃げを設けて丁寧に仕上げます(図7参照)。
図7 割り(分割)形ハウジングの合わせ面の逃げ
2.ベアリングの取付け関係寸法
ベアリングの取付け関係寸法とは、ベアリングを取付けるのに必要な軸・ハウジングの隅の丸みと肩の寸法とをいいます。
表4に示す基準値をもとに、カタログにはベアリングの呼び番号ごとに取付け関係寸法を示しています(表5を参照)。 また、軸を研削仕上げする場合の逃げの寸法を表6に示します。
表4 軸・ハウジングの隅の丸みの半径とラジアルベアリングの場合の肩の高さ(抜粋)
単位:㎜
内輪または外輪の 面取寸法r(最小) |
軸またはウジング | |
---|---|---|
隅の丸みの半径ra(最大) | 肩の高さ h(最小) 一般の場合 |
|
0.3 | 0.3 | 1.25 |
1 | 1 | 2.75 |
1.5 | 1.5 | 4.25 |
表5 呼び番号ごとの取付け関係寸法(例:深溝玉軸受:抜粋)
呼び番号 | 取付関係寸法(mm)* | ||
---|---|---|---|
da(最小) | Da(最大) | ra(最大) | |
6906 | 32 | 45 | 0.3 |
6006 | 35 | 50 | 1 |
6206 | 35 | 57 | 1 |
6406 | 38 | 82 | 1.5 |
[備考]
*取付け関係寸法の記号は、図8を参照ください。
図8 深溝玉軸受の取付け関係寸法
表6 軸を研削仕上げする場合の逃げの寸法(抜粋)
内輪の面取寸法 r(最小) |
逃げの寸法 | ||
---|---|---|---|
t | rg | b | |
1 | 0.2 | 1.3 | 2 |
1.1 | 0.3 | 1.5 | 2.4 |
1.5 | 0.4 | 2 | 3.2 |
3.密封装置
ベアリングの密封装置は、外部からの異物(ごみ、水分、金属粉など)の侵入防止に加え、ベアリング内部にある潤滑剤の漏れを防止し、ベアリングの損傷を防ぎます。ベアリングの用途・使用条件に応じて、潤滑方法とともに密封装置を検討します。
密封装置には、非接触形と接触形とがあります。
1) 非接触形密封装置
回転部との接触がなく、摩擦部分をもたない非接触形密封装置は、高速・高温での用途に適しています。
非接触形密封装置には、油溝・フリンガ(スリンガともいいます)・ラビリンスの3種類があります。
a) 油溝
軸とハウジングカバーとの間の小さなすきまの部分に3本以上の溝を設けます。
グリース潤滑で低速運転を除き、他の密通装置と併せて使います。
図9 油溝の構造例
b) フリンガ(スリンガ)
フリンガは遠心力によって油やごみをはね飛ばし、そのうえ空気の流れを起こし、ポンプ作用によって油の漏れやごみの侵入を防ぎます。
多くは他の密封装置と併せて使います。
図10 フリンガ(スリンガ)の構造例
c) ラビリンス
ラビリンスは、軸とハウジングとの間に凹凸状のすきま(迷路)をもたせます。
特に高速で回転する軸の油漏れを防ぎます。
図11 ラビリンスの構造例
2) 接触形密封装置
接触形密封装置は、合成ゴム・合成樹脂などの先端を軸などの回転部と摩擦接触させる密封装置です。合成ゴムを使うオイルシールが最も多く使われます。
図12にオイルシールの構造例を示します。
No. | 名称 | 機能 |
---|---|---|
① | リップ先端 | 回転軸と接触しながら流体の漏れを防止 |
② | 主リップ | リップ先端に適正な緊迫力を保持させる |
③ | ばね | 主リップの緊迫力を高めて維持する |
④ | 外周面 | オイルシールをハウジングに固定し、はめあい面からの流体の漏れを防止 |
⑤ | 金属環 | オイルシールの強度をもたせる |
⑥ | 補助リップ | 外部からの異物の侵入を防止 |
図12 オイルシールの構造例と機能
なお、ジェイテクトでは各種のオイルシールを販売しています。
まとめ
設計する機械の性能を確保するためには、使用条件に応じたベアリングの周辺部品の設計をすることが重要です。
また、ベアリングの取付けと取外しなどの保守点検コストを含む経済性を考慮することも必要です。
- 軸およびハウジングの設計は、運転時にかかる力によって軸やハウジングに大きな変形やたわみが発生しないようにします。また、軸およびハウジングのはめあい面には、必要な公差や粗さを適用します。回転の振れや音響について厳しい要求がある場合には、研削仕上げとします。
- ベアリングの取付け関係寸法は、選んだベアリングの呼び番号ごとの推奨寸法を基に決めます。
- 密封装置には、非接触形と接触形とがあります。使用条件に応じて、適切な形式を選びます。