ベアリング
コラム
オイルシール(その1) ~オイルシールの「構造・機能」と「形式」~
- #4 オイルシール
オイルシールは、機械の密封装置として広く使われています。
ジェイテクトでは、カタログ「オイルシール&Oリング」にオイルシールを掲載しています。
しかし、このカタログはページ数が多く、内容も専門用語が多く使われていることから、手に取りにくいと感じられる方も多いようです。
そこで本コラムでは、
・オイルシールの「構造・機能」と「形式」
・オイルシールの選び方
・オイルシールの取扱い、密封不具合の原因と対策
を順番にご紹介します。
1. オイルシールとは
さまざまな機械には、多くの密封装置が使われています。
密封装置には、次の役割があります。
- 内部に密封した潤滑剤などの漏れを防ぐ
- 外部からのダスト(ちり、ほこりなど)・異物(ごみ、水分、金属粉など)の侵入を防ぐ
図1に示すように、密封装置には接触形と非接触形があります。
代表的な接触形密封装置として、オイルシールがあります。
図1 密封装置の分類
ベアリング用の密封装置の種類については、こちらをご覧ください。
ベアリングの選び方(その7)~「ベアリングの周辺部品」~
2. オイルシールの構造と機能
オイルシールには、使用する機械や密封対象物に応じてさまざまな形状があります。
もっとも代表的なオイルシールの形状を例として、その構造と各部の名称を図2に示します。
また、各部の機能を表1に示します。
図2 代表的なオイルシールの構造と各部の名称
※『KOYO』はジェイテクトの登録商標です。
表1 各部の機能
No. | 名称 | 機能 |
① | 主リップ | オイルシールを構成するもっとも重要な部分です。 リップ先端が軸の全周面と確実に接触し、密封機能を発揮します (図3参照)。 |
② | 補助リップ | 主に大気側から、ダスト・異物が侵入するのを防ぎます。 主リップと補助リップ間の空間は、オイルシールのための潤滑剤を保持します。 |
③ | リップ先端 | オイルシールが軸と接触する部分をいいます。 リップ先端は、軸表面に押し付けて密封性能を確保できるようくさび形状の断面にして、高周速に耐えるよう軸と接触させています。 |
④ | ばね | リップの締付け力(=緊迫力)を補強し、軸とリップ先端の接触を安定化して密封性能を高めます。また、熱などによって主リップが変形し密封性能が低下することを抑制します。 |
⑤ | 金属環 | オイルシールに剛性を与え、ハウジングにしっかりと固定させるとともに、取扱・取付作業を容易にします。 |
⑥ | 外周面 | オイルシールをハウジングに固定させるとともに、はめあい面から密封対象物が漏れることや、ダスト・異物が侵入することを防ぎます。 |
⑦ | 密封液側面 | オイルシールの正面側の端面をいいます。ゴムで構成され、ハウジング肩部に押し付けられ はめあい面の密封機能を補助します。 |
⑧ | 大気側面 | 通常、密封対象物と接触しない側の軸中心線に垂直なオイルシールの表面をいいます。 |
図3 主リップ緊迫力による密封機能
※『KOYO』はジェイテクトの登録商標です。
図4にジェイテクトのオイルシールの特長を示します。
図4 ジェイテクトのオイルシールの特長
更に詳しい内容は、こちらをご覧ください。
オイルシールの各部の名称と機能
3. オイルシールの形式と呼び番号
1) 代表的なオイルシールの形式と特長
オイルシールの形式は、主に外周面の材料、ばねの有無、リップの形式によって分類しています。
主な形式は、ISO 6194-1、JIS B 2402-1などに規定されています。
表2に代表的なオイルシールの形式、表3にオイルシールの形式の特長を示します。
また、表4にジェイテクトのオイルシールの形式記号と各規格との対比を示します。
表2 a) 代表的なオイルシールの形式(ばねあり)
ばねあり | |||
外周ゴム | 外周金属 | 補強環付き 外周金属 |
|
補助リップ |
|||
補助リップ |
表2 b) 代表的なオイルシールの形式(ばねなし)
ばねなし | ||
外周ゴム | 外周金属 | |
補助リップ |
||
補助リップ |
表3 オイルシールの形式の特長
No. | 形式 | 特長 |
1 | ばねありタイプ | 安定した密封性を確保します。 |
2 | 外周ゴムタイプ | オイルシール外周面の密封性を安定させます。 |
3 | 外周金属タイプ | はめあい面との保持力が向上します。 |
4 | 補強環付き外周金属タイプ | 補強環によって主リップを保護します。 |
5 | 補助リップ付きタイプ | オイルシールの大気側面に、ダスト・異物などが多い用途に用います。 |
表4 ジェイテクトのオイルシールの形式記号と各規格との対比
ジェイテクト |
ISO 6194-1 1) JIS B 2402-1 2) |
MHS | タイプ1 |
HMS | タイプ2 |
HMSH | タイプ3 |
MH | - |
HM | - |
MHSA | タイプ4 |
HMSA | タイプ5 |
HMSAH | タイプ6 |
MHA | - |
HMA | - |
注
1) ISO:国際標準化機構(International Organization Standardization)
2) JIS:日本産業規格(Japanese Industrial Standard)
2) 特殊オイルシールの形式と特長
ジェイテクトでは、さまざまな機械や用途に対応する特殊形式のオイルシールをご提供しています。
表5に代表的な特殊オイルシールの形式・形状および特長を示します。
表5 代表的な特殊オイルシールの形式・形状および特長
名称 | 形式 (形式記号) |
形状 | 特長 |
ヘリックス |
リップ大気側面に設けた一方向のハイドロダイナミックリブa)によって、密封性能を向上 | ||
パーフェクトシール | リップ大気側面に設けた両方向のハイドロダイナミックリブa)によって、密封性能を向上(両方向の軸回転での密封性能を向上) | ||
スーパー |
リップ大気側面に設けた一方向のハイドロダイナミックリブa)を二段形状とし、一段目リブが摩耗しても二段目リブが接触し、密封性能を向上 | ||
サイドリップシール | 大きなサイドリップにより、ダストや水の侵入防止性能を強化 | ||
注a) ハイドロダイナミックリブの働き |
更に詳しい内容は、こちらをご覧ください。
3) オイルシールの呼び番号
ジェイテクトのオイルシールの呼び番号の構成を、図5に示します。
オイルシールの呼び番号は、
① オイルシール形式記号
② ばね記号
③ リップ形式記号
④ 寸法番号
⑤ 特殊形式記号
から構成され、表6にそれぞれの記号・番号の例を示します。
図5 ジェイテクトのオイルシールの呼び番号の構成
表6 オイルシールの呼び番号の記号・番号
No. | 記号・番号 | 例 | |
① | オイルシール形式記号(*) |
MH:外周ゴム HM:外周金属 HMH:補強環付き外周金属 |
|
② | ばね記号 |
無記号:ばねなし S:ばねあり |
|
③ | リップ形式記号 |
無記号:補助リップなし A:補助リップ付き |
|
④ | 寸法番号 | 軸番号 | 45:適用する軸径、Φ45 mm |
ハウジング穴番号 | 70:適用するハウジング穴径、Φ70 mm | ||
幅番号 | 8:適用するオイルシールの幅寸法、8 mm | ||
⑤ | 特殊形状記号 |
J:同じ形式記号、寸法番号のものを区別します。 2つ以上存在する場合には、Jの後に数字の追い番号を付けます。 |
備考 (*)オイルシール形式記号は、表2をご覧ください。
4. オイルシールの使用箇所の例
多くの機械にオイルシールが使われています。
1) 自動車用オイルシール
自動車の多くの箇所にオイルシールが使われています。
図6に代表的な使用箇所とオイルシール形式を示します。
図6 自動車用オイルシール
更に詳しい内容は、こちらをご覧ください。
2) 鉄鋼設備用オイルシール
多くの鉄鋼設備用装置にオイルシールが使われています。
図7に圧延機用オイルシールの使用箇所とオイルシール形式を示します。
図7 鉄鋼設備(圧延機)用オイルシール
更に詳しい内容は、こちらをご覧ください。
5. まとめ
オイルシールは代表的な接触形密封装置であり、
・ 潤滑剤などの密封対象物の外部への漏れを防ぐとともに、
・ 外部からのダスト(ちり、ほこりなど)・異物(ごみ、水分、金属粉など)の侵入を防ぎます。
オイルシールには、使用する機械や密封対象物に応じてさまざまな形状があります。
そのため、機械を設計するときには、その機械に適したオイルシールを選ぶことが重要です。
次回は、オイルシールを選ぶポイントをご紹介します。
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