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ベアリングの選び方(その8)~「ベアリングの取付けと取外し」~

ベアリングの選び方(その7)では、「ベアリングの周辺部品」をご紹介しました。

今までのベアリングの選び方はこちらをご覧ください

今回は、「ベアリングの取付けと取外し」の検討内容をご紹介します。

選んだベアリング形式の検討項目と確認内容を、表1に示す順番でご紹介してきました。

今回は、ベアリングの取付けと取外しの確認内容をご紹介します。

ベアリングの選び方(その8) ~「ベアリングの取付けと取外し」~

表1 選んだベアリング形式の確認項目

順番 検討項目 主な確認内容
ベアリングの形式 かかる荷重の方向と大きさから選び、取付けスペース(空間)に収まる
ベアリングの配列 1本の軸に2個(以上)のベアリングを使う
ベアリングの寸法・寿命 寸法・寿命が要求を満足するか
ベアリングの許容回転速度・回転精度、はめあい、内部すきま 機械に必要な回転精度・剛性を満足するか
寿命を満足するはめあいと内部すきまであるか
ベアリングの予圧と剛性 機械に必要な剛性を満足するか
ベアリングの潤滑方法 ベアリングが長期間安定して回転できるか
ベアリングの周辺部品 周辺部品の構造
ベアリングの取付けと取外し 機械の保守・点検が簡単にできるか
<今回のコラムでご紹介します>

ベアリングの取付けと取外しとして、次の内容についてご紹介します。

  • ベアリングの取扱い上の注意事項
  • ベアリングの取付け
  • ベアリングの取外し
  • ベアリングの保守・点検

1. ベアリングの取扱い上の注意事項

ベアリングは精度の高い機械部品であり、慎重に取扱うことが必要です。
表2に、ベアリングの取扱い上の注意事項を示します。

表2 ベアリングの取扱い上の注意事項

番号 内容 注意事項
1 きれいに保つ ベアリングと周辺部品をきれいにし、異物の侵入を避ける
2 丁寧に取扱う 適切な取扱い器具を使用し、損傷を引き起こす強い衝撃を与えない。
3 さびの発生 手の汗がつかないように手袋を使用する。
湿気の多い場所での取扱いを避ける。

<注意>

ベアリングはさび止め油を塗布し、さび止め紙で包装して出荷しています。
長期保管中のさびの発生を防止するため、湿度65%以下、温度20℃前後で、床面よりも30cm以上離した棚に保管します。

2. ベアリングの取付け

1) 取付け前の注意事項

a) ベアリングの準備

取付け直前に、ベアリングの包装を解きます。ベアリングに塗布されているさび止め油は潤滑性能も良いため、通常の用途ではベアリングを洗浄せずにそのまま取り付けます。

b) 軸およびハウジングの準備

清浄のうえ、きずや機械加工による かえり のないことを確認します。特に、ハウジング内部には、鋳造砂、削りくずなどが絶対に残らないようにします。

c) 軸およびハウジングの検査

軸およびハウジングの寸法・形状・仕上げが、設計とおりにできていることを検査します。軸径およびハウジング内径は、図1および図2に示す数か所の位置で測定します。

図1 軸径の測定位置図1 軸径の測定位置

図2 ハウジング内径の測定位置図2 ハウジング内径の測定位置

ベアリングを取付け直前に、検査に合格した軸およびハウジングのそれぞれの はめあい面 にマシン油(機械油)を塗布します。

2) ベアリングの取付け方法

ベアリングの取付け方法は、ベアリングの形式や はめあい 条件によって異なります。
ここではベアリングを しまりばめ で取り付ける場合をご紹介します。

しまりばめ とは

ベアリングの選び方(その4)~「ベアリングの許容回転速度・精度と、はめあい」~

ベアリングコラム 初心者講座 「はめあい」

しまりばめ でのベアリングの取付け方法には、「圧入」、「焼ばめ」および「冷やしばめ」があります(表3参照)。

表3 しまりばめ でのベアリングの取付け方法

しまりばめ 取付け方法 利用器具・装置
内輪 圧入 プレス
ボルトとナット
焼ばめ
(加熱膨張)
油槽
外輪 圧入 プレス
ボルトとナット
冷やしばめ
(冷却収縮)
ドライアイス

a) 圧入による取付け

しめしろの少ない小形ベアリングは、圧入によって取り付けます。
代表的な圧入方法には、プレスの利用(図3参照)またはボルトとナットの利用(図4参照)があります。

図3 プレスの利用図3 プレスの利用

図4 ボルトとナットの利用図4 ボルトとナットの利用

いずれの圧入方法でも、当て金を使ってベアリングに均一に力をかけて、静かに圧入します(図5参照)。

図5 圧入方法での当て金の使用図5 圧入方法での当て金の使用

<注意>

  • 内輪を圧入する場合には、当て金を 外輪に接触してはいけません!
  • 外輪を圧入する場合には、当て金を 内輪に接触してはいけません!

正しい「当て金」の位置で圧入をしないと、ベアリングの軌道面にきずが発生(損傷)します。

図6 内輪を圧入する場合の不適切な圧入方法図6 内輪を圧入する場合の不適切な圧入方法

b) 焼ばめ による取付け(内輪しまりばめ)

しめしろの多いベアリングまたは大形ベアリングを軸に取り付ける場合には、焼ばめによって取り付けます。ベアリングを加熱して膨張させる焼ばめは、ベアリングに無理な力がかからず、短時間での取り付けができます。代表的な焼きばめには油槽による加熱(図7参照)があります。

図7 油槽による加熱図7 油槽による加熱

<注意>

加熱温度は100℃以下にします。
(120℃以上で加熱すると、ベアリングの硬さが低下し寿命低下の原因となります。)

c) 冷やしばめ による取付け(外輪しまりばめ)

ドライアイスなどを使い、ベアリングを冷却して取り付けます。この場合、空気中の水分がベアリングに凝着するため、適切なさび止め処置が必要です。

3) ベアリングの取付け後の確認

予圧が必要なベアリングには予圧を与え、密封装置を取り付けます。

a) 取付け後(試運転前)の確認

小型の機械では、手回しで回転調子を確認し、表4に示す異常がないことを確認します。

表4 試運転でのベアリングの異常

番号 異常 異常の主な原因
1 引っかかり(回転が滑らかでない) 異物の侵入、転がり部分のきず
2 回転が重い
(過大トルク)
密封装置の摩擦、すきま過小
取付け誤差
3 回転トルクむら 取付け不良、取付け誤差

大型の機械では、無負荷での始動直後に動力を切って惰性でベアリングを回転し、異常な振動や音がないことを確認します。

b) 試運転での確認

動力での試運転は、無負荷・低速で始動し、徐々に所定の条件まであげるようにします。主に音響、温度上昇、振動を確認し、異常が起これば直ちに点検をします。この場合、ベアリングを取り外して点検をすることもあります。

異常音・温度上昇の原因と対策について、詳しくはこちらを参照ください。

転がり軸受総合カタログ - 異常音・異常温度上昇とその原因・対策

3. ベアリングの取外し

ベアリングを取り外して再利用する場合または故障の原因を究明する場合には、取付けと同様に、ベアリングおよび周辺部品を損傷しないようにします。
特に しまりばめ で取り付けたベアリングを取り外す場合には、きずをつけないように注意を払います。
しまりばめ のベアリングの取外し方法を、表5に示します。

表5 しまりばめ のベアリングの取外し方法

しまりばめ 取外し方法 利用器具・装置
内輪 機械式 プレス
引抜き治具
外輪 機械式 取外し用切欠き
ボルトとナット

1) 内輪の取外し方法

代表的な内輪の取外し方法には、プレスおよび引抜き治具による方法があります。

a) プレスによる取外し

プレスによる取外し(図8参照)が可能であれば、最も簡単な方法です。当て金を通じて引抜く力を内輪にかけます。

図8 プレスによる取外し図8 プレスによる取外し

<注意>

内輪の取外し時には、当て金を外輪に接触してはいけません。
外輪に接触すると、ベアリングの軌道面にきずが発生(損傷)します。

b) 引抜き治具による取外し

専用の引抜き治具(図9参照)による取外しでは、治具の爪が内輪の側面に確実にかかるようにします。

図9 引抜き治具による取外し図9 引抜き治具による取外し

2) 外輪の取外し方法

しまりばめ の外輪を取外すためには、ハウジングの肩の部分に切欠き(図10参照)、またはボルト穴(図11参照)を設けるようにします。

図10 取外し用切欠き図10 取外し用切欠き

図11 取外し用ボルト穴とボルト図11 取外し用ボルト穴とボルト

4. ベアリングの保守・点検

ベアリングを定期的に適切に保守・点検し、ベアリングの異常を早期に発見して機械の突然の故障を防止することは、生産性・経済性の向上のためには重要です。
取り外したベアリングを、表6に示すように処置をします。

表6 取り外したベアリングの処置

順番 処置内容 備考
1 外観の写真撮影
2 潤滑剤の残存量確認と調査用に採取
3 洗浄とさび止め処置 粗洗浄と仕上げ洗浄により、付着物をきれいに落とす
4 点検 寸法公差、回転精度、内部すきま、はめあい面、軌道面、シールなど
5 再使用判定 機械の性能・重要度・点検頻度を考慮

1) ベアリングの点検

取り外したベアリングは、寸法公差、回転精度、内部すきま、はめあい面、軌道面、シールなどを注意深く点検します。

2) ベアリングの再使用判定

ベアリングの再使用判定には、ベアリングの取扱いまたはベアリングを熟知した人が行うようにします。なお、再使用可能かどうかの判定基準は、機械の性能・重要度・点検頻度によって変わります。
また、ベアリングの損傷例は、ベアリングの再使用の判断に役立ちます。

ベアリングの損傷例については、こちらを参照してください。

転がり軸受総合カタログ - 軸受の損傷例

まとめ

設計する機械の性能を確保するためには、使用条件に合わせた適切なベアリングを選びます。

  1. ベアリングの形式や はめあい 条件に応じて、適切な方法でベアリングを取り付けます。
    特に、ベアリングを しまりばめ で取り付ける場合では、ベアリングおよび周辺部品を損傷しないようにして取り付けます。
  2. ベアリングの取付け後、機械の試運転を行い、主に音響、温度上昇、振動などの異常がないことを確認します。
  3. ベアリングを定期的に適切に保守・点検して、機械の突然の故障を防止することは、生産性・経済性の向上のために重要です。
  4. ベアリングおよび周辺部品を損傷しないように取り外し、取り外したベアリングに異常がないかを注意深く点検します。異常が認められる場合には、ベアリングが周辺部品・潤滑方法および使用条件に適しているかを再度確認のうえ、機械の信頼性を高める適切な対策を講じます。

ベアリングコラムでは8回にわたって『ベアリングの選び方のポイント』をご紹介してきました。本コラムが、機械を設計される方、またはベアリングの保守・点検をされる方のお役にたてればと願っております。

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