ベアリング
コラム
ベアリングの選び方(その1)~「ベアリング選びの順番」と「形式」~
- #2 ベアリングの選びかた
これまでベアリングコラムでは、構造などを中心に、ベアリングが多くの機械に使われ、重要な機械部品であることをご紹介してきました。
ベアリングの仕組みって?摩擦を減らす構造と部品の役割
ベアリングの違いって?~ベアリングの種類と特長~
機械を設計するときには、その機械に適したベアリングを選ぶことが重要です。
ジェイテクトではベアリングの選び方を、転がり軸受総合カタログに掲載していますが、カタログには専門用語が多く使われ、ページ数も多いことから、手に取りにくいと感じられる方も多いようです。
そこで本コラムでは、機械に適したベアリングを選ぶにはどうしたら良いか? ベアリングを選ぶポイントをご紹介していきたいと思います。
なお、『転がり軸受総合カタログ』では、ベアリングを『軸受』『転がり軸受』と表記しておりますが、本コラム内では『ベアリング』と記載しております。
1.ベアリングを選ぶ条件って何?
ベアリングには多くの形式があり、その大きさも数mm程度の極小のものから、10mを超える大形のものまで様々です。
図1 超小形ベアリング(ミニチュアベアリング)
※「転がり軸受 総合カタログ」ではミニアチュアと表記されています。
図2 超大形ベアリング(トンネル掘進機用)
このように様々な種類のベアリングのなかから、その機械に適したベアリングを選ぶには、次の二つの条件が重要になります。
- 条件1:機械の使用環境と、ベアリングへの要求条件に合っていること
- 条件2:交換用のベアリングが容易に入手でき、機械の保守・点検が簡単にできること
この条件を満たせば、機械の故障を減らし、補修時にベアリングの交換時間が短くなり、機械をより長い時間運転することができます。
そのため、適切なベアリングを選ぶことは、経済的にも優れた機械を設計することになります。
2.ベアリング選びの順番
『ベアリングの選び方』のコラムでは、次の表1に示す順番に従って、ベアリングを選びます。
ただし、ご紹介する順番は、ベアリングの選び方の指針です。
実際にベアリングを選ぶ際には、過去の実績品および改善事例をもとに選ぶことも重要ですので、必ずしもこの順番にこだわる必要はありません。
表1 ベアリングを選ぶ順番
順番 | 検討項目 | 主な確認内容 |
---|---|---|
① | ベアリングの形式 | かかる荷重の方向と大きさから選び、取付けスペース(空間)に収まる <今回のコラムでご紹介します> |
② | ベアリングの配列 | 1本の軸に2個(以上)のベアリングを使う |
③ | ベアリングの寸法・寿命 | 寸法・寿命が要求を満足するか |
④ | ベアリングの許容回転速度・回転精度、はめあい、内部すきま | 機械に必要な回転精度・剛性を満足するか 寿命を満足するはめあいと内部すきまであるか |
⑤ | ベアリングの予圧と剛性 | 機械に必要な剛性を満足するか |
⑥ | ベアリングの潤滑 | ベアリングが長期間安定して回転できるか |
⑦ | ベアリングの周辺部品 | 周辺部品の構造 |
⑧ | ベアリングの取付けと取外し | 機械の保守・点検が簡単にできるか |
3.ベアリング形式の選び方
機械を設計する際は、最初に必要な強度を満たす軸の寸法を決めることが多く、それをもとにベアリングを選びます。
1)主にラジアル(軸と直角方向の)荷重がかかる場合には、ラジアルベアリングを、主にアキシアル(軸と同じ方向の)荷重※がかかる場合には、スラストベアリングを選びます。
※アキシアル荷重は、スラスト荷重と呼ばれることもあります。
2)ベアリングにかかる荷重が小さい場合にはボールベアリングを、大きい場合にはローラーベアリングを選びます。
図3 ラジアル荷重とアキシアル荷重
表2 ベアリングの種類と荷重
転動体 | |||
玉 | ころ | ||
主な力のかかる方向 | 軸と直角 (ラジアル荷重) |
ラジアルボールベアリング | ラジアルローラーベアリング |
軸と同じ (アキシアル荷重) |
スラストボールベアリング | スラストローラーベアリング |
図4 ラジアルベアリング
図5 スラストベアリング
3) 一つのベアリングにラジアル荷重とアキシアル荷重が同時にかかる場合(合成荷重)では、小さな合成荷重の場合には深溝玉軸受またはアンギュラ玉軸受、大きな合成荷重の場合には円すいころ軸受を選びます。
図6 「ラジアル荷重」と「アキシアル荷重」(合成荷重)がかかるアンギュラ玉軸受
また、大きな両方向のアキシアル荷重がかかる場合では、2個以上のベアリングの組合せ、または複列ベアリングを選びます。
図7 2個のベアリングの組合せ (アンギュラ玉軸受)
図8 複列ベアリング(円すいころ軸受)
4. ベアリングの取付けスペース(空間)
ベアリングのカタログには、表3に示す主要寸法(内径、外径などの輪郭を示す寸法)表が掲載されています。この主要寸法表を使い、軸またはハウジングの寸法をもとにして、取付けスペース(空間)内に収まるベアリング形式を選びます。
1) 主要寸法表には、ベアリングの内径寸法に対応する外径寸法と幅(スラストベアリングの場合は高さ)寸法などが、寸法系列ごとに示されています。
2) 寸法系列記号は幅系列と直径系列とを組合せたものをいい、直径系列は内径寸法に対して段階的な外径寸法になっています。
表3 ベアリングの主要寸法表の例(自動調心ころ軸受)
軸受形式 | 軸受系列記号 | 形式記号 | 寸法系列記号 | |
---|---|---|---|---|
幅系列 | 直径系列 | |||
自動調心ころ軸受 | 239 | 2 | 3 | 9 |
230 | 2 | 3 | 0 | |
240 | 2 | 4 | 0 | |
231 | 2 | 3 | 1 | |
241 | 2 | 4 | 1 | |
222 | 2 | 2 | 2 | |
232 | 2 | 3 | 2 | |
213 | 2 | 0 | 3 | |
223 | 2 | 2 | 3 |
3) 同じ内径寸法のベアリングでも、数種類の幅寸法および外径寸法があり、そのなかから適したベアリングを選びます。
[(図9 a)参照]
また、ハウジングの寸法に一致するベアリングの外径寸法をもとに、適したベアリングを選ぶこともあります。
[(図9 b)参照]
図9 同じ内径寸法または外径寸法でのベアリング
参考:ラジアルベアリングの寸法系列の解説 / スラストベアリングの寸法系列の解説
4) 表3の事例で、直径系列0、2、3のベアリングを選びます。機械の小型化に伴いベアリングの取付けスペースが制限される場合には、直径系列9のベアリングを選びます。
また、半径方向のみ取付けスペースが制限される場合には、幅(スラストベアリングの場合は高さ)系列2以上のベアリング、または複列ベアリングを選びます。 なお、幅系列は、一部のベアリング形式(深溝玉軸受など)では省略されているため、詳細は転がり軸受総合カタログをご確認ください。
なお、ベアリング形式を選ぶこの段階では一つの形式に限定せず、複数の形式を選ぶようにします。
5.選んだベアリング形式の確認
表4に示す"ベアリング形式による性能比較表"を使って、選んだベアリング形式がおおむね妥当であることを確認します。
表4 ベアリング形式による性能比較表
深溝 玉軸受 |
アンギュラ玉軸受 | ||||
---|---|---|---|---|---|
単列 | 組合せ | 複列 | |||
負 荷 能 力 |
ラジアル 荷重 |
||||
アキシアル 荷重 |
※ | ※ | |||
合成荷重 | |||||
振動 衝撃 |
|||||
高速回転 |
具体的には、表5に示す項目を確認して、選んだベアリング形式が妥当であるかを確認していきます。
表5 選んだベアリング形式の確認項目
順番 | 検討項目 | 主な確認内容 |
---|---|---|
① | ベアリングの形式 | かかる荷重の方向と大きさから選び、取付けスペース(空間)に収まる <今回のコラムでご紹介しました> |
② | ベアリングの配列 | 1本の軸に2個(以上)のベアリングを使う |
③ | ベアリングの寸法・寿命 | 寸法・寿命が要求を満足するか |
④ | ベアリングの許容回転速度・回転精度、はめあい、内部すきま | 機械に必要な回転精度・剛性を満足するか 寿命を満足するはめあいと内部すきまであるか |
⑤ | ベアリングの予圧と剛性 | 機械に必要な剛性を満足するか |
⑥ | ベアリングの潤滑 | ベアリングが長期間安定して回転できるか |
⑦ | ベアリングの周辺部品 | 周辺部品の構造 |
⑧ | ベアリングの取付けと取外し | 機械の保守・点検が簡単にできるか |
まとめ
機械に適したベアリングを選ぶには、使用環境と要求条件とに合うこと、交換用のベアリングが容易に入手できることが重要になります。「ベアリングの選び方」のコラムでは、その指針をご紹介していきます。
今回は「ベアリングの形式の選び方」として、次のポイントをご紹介しました。
- ベアリングにかかる荷重の方向と大きさをもとに、適したベアリング形式を選びます。
- 軸またはハウジングの寸法に一致するベアリングを、ベアリングの主要寸法表から選びます。
- "ベアリング形式による性能比較表"を使って、ベアリングの使用条件をもとに、選んだベアリング形式が妥当であることを確認します。