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オイルシール(その2) ~オイルシールの「選び方」~

オイルシール(その1)では、オイルシールの「構造・機能」と「形式」をご紹介しました。


オイルシール(その1) ~オイルシールの「構造・機能」と「形式」~

オイルシールには、使用する機械や密封対象物に応じてさまざまな形状があります。
そのため、機械を設計するときには、その機械に適したオイルシールを選ぶことが重要です。

そこで本コラムでは、機械に適したオイルシールを選ぶにはどうしたら良いか?
オイルシールを選ぶポイントをご紹介します。


column_04_02_mv.jpg1. オイルシールを選ぶ条件

オイルシールには多くの形式があり、またその大きさもさまざまです。
このようにさまざまな種類のオイルシールのなかから、その機械に適したオイルシールを選ぶには、次の二つの条件が重要になります。

条件1:機械の使用環境と、オイルシールの要求条件に合っていること
条件2:交換用のオイルシールが容易に入手でき、機械の保守・点検が簡単にできること

これらの条件を満たせば、機械の故障を減らし、補修時にオイルシールの交換時間が短くなり、機械をより長い時間運転することができます。

そのため、適切なオイルシールを選ぶことは、経済的にも優れた機械を設計することになります。


2. オイルシールの選び方

一般にオイルシールは、表1に示す順番に従って選びます。
なお、実際にオイルシールを選ぶ際には、過去の実績品および改善事例をもとに選ぶことも重要ですので、必ずしもこの順番にこだわる必要はありません。

表1 オイルシールを選ぶ順番

No. 検討項目
1 オイルシールの形式
2 ゴムの材料
3 金属環とばねの材料

1) オイルシールの形式

表2に従って、オイルシールの形式を選びます。

表2 オイルシールの形式の選び方

No. 検討項目 フロチャート
1 外周部の材料 図1
2 ばねの有無 図2
3 リップの形式 図3


column_04_02_1.jpg図1 外周部の材料




column_04_02_2.jpg図2 ばねの有無


column_04_02_3.jpg図3 リップの形式

<選び方の例>
上記のフローチャートに基づき、表3に示す要求条件に合うオイルシールの形式として、
表4に示す形式記号MHSAまたはHMSAが選ばれます。

表3 要求条件

No. 要求条件
1 ハウジング 鉄鋼製の一体型で、
ハウジング穴のはめあい面粗さが1.8μmRa
2 密封対象物 グリース
3 圧力 大気圧
4 回転速度(周速) 6 m/s
5 大気側の条件 ダスト雰囲気




表4 選んだオイルシールの形式

形式1 形式2
外周部の材料 外周ゴム 外周金属
ばねの有無 ばねあり ばねあり
リップの形状 補助リップ付き 補助リップ付き
形式
(形式記号)
column_04_02_4_MHSA .jpg column_04_02_5_HMSA.jpg

詳しいオイルシールの形式および形式記号については、こちらをご覧ください。
オイルシールの形式

2) ゴムの材料

オイルシールに用いるゴムの材料を、使用温度と密封対象物によって選びます。
表5に代表的なゴム材料の温度特性を示します。
なお、ゴムと密封対象物を含む各種媒体との適合性の確認が必要です。
<注意>
極圧添加剤として潤滑剤に添加される化合物は、熱によって活性化されてゴムと化学反応を引き起こし、ゴム物性に悪影響を及(およ)ぼします。このため、ゴム材料との適合性を確認してください。

表5 代表的なゴム材料の温度特性

ゴム材料
(ASTM*1略号)
グレード 特長 使用温度領域(℃) 媒体との適合性

ニトリルゴム

(NBR)
標準タイプ

耐熱性・耐寒性・耐摩耗性のバランスが良好

-30~100

媒体との適合性の確認必要

2参照)

【媒体】

燃料油

・潤滑剤

・作動油

・グリース

・薬品

・水

耐寒・耐熱タイプ 耐寒性・耐熱性に優れる -40~110

水素化

ニトリルゴム

(HNBR)
標準タイプ

ニトリルゴムと比べ、
耐熱性・耐摩耗性に優れる

-30~140

アクリルゴム

(ACM)
標準タイプ 耐油性に優れ、耐摩耗性も良好 -20~150
耐寒・耐熱タイプ 耐寒性を改良し耐熱性を維持 -30~150

シリコーンゴム

(VMQ)
標準タイプ 広温度範囲に使用可能で、
耐摩耗性も良好
-50~170

ふっ素ゴム

(FKM)
標準タイプ 最も耐熱性に優れ、
耐摩耗性にも優れる
-20~180

備考
*1 ASTM:米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials)
*2 詳しい媒体との適合性については、こちらをご覧ください。
各種ゴム材料の温度特性と各種媒体との適合性

3) 金属環とばねの材料

オイルシールの金属環とばねの材料を、密封対象物によって選びます。
表6に金属環とばね材料の選び方を示します。

表6 金属環とばね材料の選び方

密封
対象物
材料
金属環 ばね

冷間圧延鋼板

(JIS* SPCC)

ステンレス鋼板

(JIS* SUS304)

硬鋼線

(JIS* SWB)
ステンレス鋼線
(JIS* SUS304)
オイル(油)
グリース
× ×
海水 × ×
水蒸気 × ×
薬品 × ×
有機溶剤

 備考
JIS:日本産業規格(Japanese Industrial Standard)
:使用可
×:使用不可
:通常使用しない


3. 軸およびハウジングの設計

オイルシールの密封性能は、適切に設計された軸とハウジングとの組合せによって発揮することができます。

1) 軸の設計

表7に軸の設計時の確認項目を示します。

表7 軸の設計時の確認項目

No. 検討項目 主な確認内容 備考
1 材料 機械構造用炭素鋼、低合金鋼、
ステンレス鋼を使用。
柔らかい材料(黄銅など)は適しません
2 硬さ 30 HRC以上の硬さとし、
ダスト・汚れ油中での摩耗しやすい使用条件では、50~60 HRCの硬さとする。
3 軸径の
寸法許容差
h8 を適用する(h8の軸と組み合わせを前提にオイルシールを設計)。
4 軸端の面取り 軸端に面取りを設ける。
(オイルシールの取付け時の損傷を防止)
図4参照
5 表面粗さと
表面仕上げ
リップが接触する軸の表面粗さは、
0.1~0.32 μmRaおよび0.8~2.5 μmRz
加工リード角が0.05°以下になる仕上げ加工(機械加工リード目はオイルシールの密封性能を損なう恐れあり:図5参照)。



column_04_02_6.jpg

軸径の呼び寸法
d1, mm
d1-d2, mm
を超え 以下
10 1.5以上
10 20 2.0以上
20 30 2.5以上

図4 軸端の面取り(抜粋)




column_04_02_7.jpg column_04_02_8.jpg
a) 良い仕上げ面
(機械加工リード目なし)
b) 良くない仕上げ面
(機械加工リード目あり)

図5 軸の表面仕上げ



2) ハウジングの設計

表8にハウジングの設計時の確認項目を示します。

表8 ハウジングの設計時の確認項目

No. 検討項目 主な確認内容 備考
1 材料 鋼や鋳鉄は、問題なし。
アルミニウム合金や樹脂(材料の線膨張係数に大きな差がある材料)は、十分な検討が必要(高温時にオイルシールとの はめあいすきま が増大して不具合発生のリスクあり)。
2 穴径の
寸法許容差
1. 呼び寸法400 mm以下の場合:H7またはH8
2. 呼び寸法400 mm超える場合:H7
3 穴の入り口の
面取り
適切な面取りを設ける。
(オイルシールの取付けを容易に)
図6参照
4 肩寸法
(ハウジング穴に肩を設ける場合)
適切な肩寸法を設定する。 図7参照
5 穴の表面粗さ 1. 外周金属タイプ:0.4~1.6 μmRaおよび1.6~6.3 μmRz
2. 外周ゴムタイプ:1.6~3.2 μmRaおよび6.3~12.5 μmRz
(オイルシールを確実に固定し、外周部からの漏れを防止する)





column_04_02_9.jpgcolumn_04_02_10.jpg

オイルシールの幅寸法

b, mm
B1の
最小寸法
mm
L
mm
を超え 以下
10 b + 0.5 1.0
10 18 1.5
18 50 b + 0.8

図6 ハウジング穴の面取り寸法(底付き穴の場合)





column_04_02_11.jpg

オイルシールの呼び外径寸法

D, mm

F

mm
を超え 以下
10 D - 4
10 18 D - 6
18 50 D - 8

図7 ハウジング穴の肩寸法


3) 偏心量

オイルシールを装置に取付けて運転したとき、軸の振れが大きいとオイルシールのリップ先端は軸の振れに追従できなくなり、密封対象物が漏れることがあります。
この"振れの量"を偏心量といいます。偏心量は、"軸振れ"と"取付け偏心"との和になります。ここで、"偏心量"、"軸振れ"および"取付け偏心"のそれぞれの値は、一般にTIR (Total indicator Reading)で表されます。

A) 軸振れ
図8に示すように、"軸振れ"は軸中心と軸中心回転軌跡の中心との軸偏心量の2倍で、一般に振れ(↗)で表します。

column_04_02_12.jpg図8 軸振れ


B) 取付け偏心
図9に示すように、"取付け偏心"はハウジング穴中心と軸の回転中心との偏心量の2倍で表します。

column_04_02_13.jpg図9 取付け偏心


4) 偏心限界量

オイルシールのリップ先端部が軸の振れに追従できなくなる限界を、オイルシールの"偏心限界量" といいます。オイルシールの"偏心限界量"は、オイルシールの設計、軸の精度および運転条件によって影響されます。

詳しい軸およびハウジングの設計については、こちらをご覧ください。
オイルシールの偏心限界量の例


4. オイルシールの性能

オイルシールの性能は、選んだオイルシール形式や材料のみならず、運転条件、偏心量、回転速度、密封対象物、潤滑条件などさまざまな要因に影響されます。
表9にオイルシールの性能に関わる項目を示します。

表9 オイルシールの性能に関わる項目

No. 項目 内容 主な要因
1 オイルシールの密封 リップのポンプ量
(一定時間あたりのリップ接触部でのオイル(油)などを押し戻す量)
・形状
(ハイドロダイナミックリブ)
・回転速度
・オイル(油)の粘度 など
2 オイルシールの寿命 ゴム材料の摩耗
リップの密封機能損失
・運転温度
・偏心量
・回転速度
・密封対象物
・潤滑条件 など
3 リップの温度 軸の回転に伴うリップ先端の摩擦熱による温度上昇 ・回転速度 など
4 許容周速 軸の回転が速くなると、密封性能を維持できなくなる。 ・偏心量
・ゴム材料
・オイルシールの形式 など
5 許容圧力 内部圧力によって、密封性能を維持できなくなる。 ・偏心量 など
6 回転トルク 回転トルクが大きい。 ・リップの緊迫力
・潤滑油
・回転速度
・軸径 など

詳しいオイルシールの性能については、こちらをご覧ください。
オイルシールの性能


5. まとめ

機械に適したオイルシールを選ぶには、使用環境と要求条件に合うこと、交換用のオイルシールが容易に入手できることが重要になります。
今回のオイルシールの「選び方」として、次のポイントをご紹介しました。

1) オイルシールの形状と材料とは、ハウジング、密封対象物、圧力、回転速度、偏心量、大気側の条件を基に選びます。
2) オイルシールの密封性能は、適切に設計された軸およびハウジングと組み合わせることによって発揮することができます。
3) オイルシールの性能は、選んだオイルシール形式や材料のみならず、運転条件、偏心量、回転速度、密封対象物、潤滑条件などさまざまな要因に影響されます。そのため、オイルシールの選び方には慎重な検討が必要です。

選んだオイルシールが性能を発揮するためには、取扱いに注意を払う必要があります。
また、オイルシールの密封不具合が発生した場合には、有効な対策を講じることも必要です。これらのポイントを次回の「オイルシール(その3)」でご紹介していきます。

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