コラム

磁気軸受とは ~磁石の力を利用する軸受~

ベアリングコラムでは、機械の設計目的に最も適するベアリングの選び方を、ベアリング(転がり軸受)の選び方(その18)にてご紹介しております。
今回は、ベアリング(転がり軸受)や滑(すべ)り軸受とは異なる特長と性能が得られる磁気軸受をご紹介します。


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1. 磁気軸受とは

まず、一般の機械に多く使われるベアリングの構造と仕組みについて復習をします。
ベアリングは、図1に示すように、軌道輪(内輪・外輪)の間に、何個かの転動体("玉"または"ころ")が一定の間隔に配置されています。

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図1 ベアリングの構造


ベアリングは、転動体の「転がり運動」によって摩擦を減らし、なめらかに回転します。

ベアリングの構造と仕組みについての詳細は、こちらをご覧ください。
ベアリングの仕組みって?~摩擦を減らす構造と部品の役割~

一方、磁気軸受には転動体がなく、磁力によって軸を浮上させ"非接触"で軸を支えます。そのため、転がり摩擦による抵抗がなく非常になめらかに軸受を回転することができます。

次に、磁気軸受の原理についてご紹介します。

2. 磁気軸受の原理

磁気軸受は、磁力(磁石の引き寄せる力)を利用して回転する軸を支えます。
図2に示すように、通常の磁力のない状態では軸には重力がかかり、軸はその位置を保つことができず落下してしまいます。


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図2 磁力がなく重力のみがかかる場合


しかし、磁石を配置して磁力(軸を引き寄せる)と重力とがつり合うようにすると、軸を落下することなく支えることが可能となります(図3参照)。

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図3 磁力と重力とのつり合い

磁気軸受では、電磁石への電流を調整して磁力を強めたり弱めたりして、重力とつり合いを保ちます。
具体的には、図4に示すように、

  • センサーが軸の位置を観測し、
  • コントローラーは観測にもとづいて電磁石への電流を調整して、
  • 電磁石の磁力と重力とをつり合うように調整します。

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図4 磁力の調整原理

3. 磁気軸受の構造

図5に磁気軸受の構造を示します。
また、表1に磁気軸受の構成部品と役割を示します。

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図5 磁気軸受の構造


表1 磁気軸受の構成部品と役割

No. 構成部品 役割
ラジアル磁気軸受
(図6参照)
軸に対して直角方向(半径方向)にかかる力を支えます。
半径方向のどの方向からの力も支えられるように、複数個の電磁石を配置します。
アキシアル磁気軸受
(図7参照)
電磁石で軸の左右方向に磁力を発生し、軸と同じ方向にかかる力を支えます。
センサー 軸の位置を観測します。
コントローラー センサーの軸の位置観測にもとづき、磁気軸受の電磁石への電流を調整します。



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図6 ラジアル磁気軸受

図7 アキシアル磁気軸受

4. 磁気軸受の特長

磁気軸受には

  • "非接触"で軸を支える
  • センサーで軸の位置を観測し、コントローラーで磁力を調整する

構造により、ベアリングでは得られない特長と性能があります。
表2に、磁気軸受の特長と効果を示します。



表2 磁気軸受の特長と効果

No. 構造 特長 効果
1 非接触で軸を支持 回転時の抵抗(損失)が非常に小さい ・高速回転が可能(図8参照)
・高速回転時の動力損失が少ない(図9参照)
・振動・騒音が小さい
回転部の摩耗なし ・摩耗による回転部品の消耗がなく交換が不要
潤滑剤が不要 ・潤滑剤の漏れ・飛散による機械の汚染なし
・潤滑剤の廃棄がなく環境に優しい
・潤滑装置のスペースが削減でき、設備の小型化が可能(図12参照)
2 センサーで軸の位置を観測 軸の位置の観測から状態監視が可能 ・状態監視により異常の兆候を迅速に把握
→未然に異常・事故を防止し、機械の安定稼働に貢献



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図8 高速回転性能の比較


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図9 高速回転時の動力損失の比較


特に、長期間にわたって稼働する機械に磁気軸受を使うと、表3に示すように定期メンテナンス
(保守・点検)の大幅な削減に貢献し、機械の安定稼働が可能となります。


表3 磁気軸受による機械の定期メンテナンスの削減と安定稼働

No. 磁気軸受の特長 効果
1 回転部の摩耗なし 摩耗による回転部品の消耗がなく交換が不要
2 潤滑剤が不要 潤滑剤の補給・交換が不要
3 センサーでの状態監視により、
機械の異常の兆候を迅速に把握
突発的な機械の停止の削減と、長期間の安定稼働に貢献


5. 磁気軸受の使用例

代表的な磁気軸受の使用例をご紹介します。
1) 高速回転スピンドル
図10に高速回転スピンドルでの磁気軸受の使用例を示します。
スピンドルの支持用に、ラジアル磁気軸受とアキシアル磁気軸受が使われています。
なお、タッチダウン軸受(非常停止時の保護用軸受)には、ボールベアリング(玉軸受)が使われています。

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図10 高速回転スピンドル


2) 設備用機械(小型化と定期メンテナンス削減)
下水処理場の汚泥処理の反応タンクで使用する送風機用の磁気軸受をご紹介します。

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備考 (*) 送風機で反応タンクに空気を送り込み、微生物の力で汚れを分解する
図11 下水処理場用送風機の使用箇所


磁気軸受は潤滑剤が不要である(表2参照)ため、潤滑装置のスペースを削減して機械の小型化に貢献しています(図12参照)。

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図12 磁気軸受による機械(送風機)の小型化


さらに、磁気軸受の特長を生かし、定期メンテナンスの大幅な削減と機械の安定稼働に貢献しています(表3参照)。


更に詳しい内容は、こちらをご覧ください。
下水処理場用送風機向け磁気軸受製品の開発

6. まとめ

磁気軸受には
① "非接触"で軸を支える
② センサーで軸の位置を観測し、コントローラーで磁力を調整する
構造により、
・ 回転時の抵抗(損失)が非常に小さい
・ 回転部の摩耗なし
・ 潤滑剤が不要
・ 軸の位置観測から状態監視が可能
  などのベアリング(転がり軸受)では得られない特長と性能があります。

そのため、
・ ベアリングが使用できない高速回転の機械
・ 潤滑剤が使用できない環境の機械
・ 長時間の安定稼働が必要な機械
などのご要望に、磁気軸受は応えることが可能です。

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