コラム

オイルシール(その3) ~オイルシールの取扱い、密封不具合の原因と対策~

オイルシール(その2)では、オイルシールの「選び方」をご紹介しました。


オイルシール(その2) ~オイルシールの「選び方」~

選んだオイルシールが密封性能を発揮するためには、取扱いに注意を払う必要があります。
また、オイルシールの密封不具合が発生した場合には、あらかじめ有効な対策を講じることも必要です。
そこで本コラムでは、オイルシールの取扱いと密封不具合の原因と対策のポイントをご紹介します。

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1. オイルシールの保管、取扱いおよび取付け

オイルシールの密封不具合は、ごく些細(ささい)な不注意で発生することがあります。そのため、オイルシールの保管・取扱いおよび取付けには、十分に注意を払うことが必要です。

1) 保管

表1に保管の主な注意事項を示します。

表1 保管の主な注意事項

No. 主な注意事項 備考
1 室温度30 ℃以下、平均相対湿度40~70 %を保持する。 図1参照
2 直射日光またはオゾンを発生する電気製品を避ける。
3 吊り下げない(リップの変形・損傷防止)。
4 密封容器で保管し、ちり・砂などの汚染物質から保護する。
5 長期保管の場合には、製造年月の古いものから使用する。

column_04_03_1.jpg図1 保管方法と条件


2) 取扱い

表2に取扱いの注意事項を示します。

表2 取扱いの注意事項

No. 主な注意事項
1 運搬時に過度の衝撃を与えない。
2 包装を解くときに、鋭い道具(ナイフなど)でシールを傷つけない。
3

オイルシールを作業台に放置しない。

(表面への汚染物質の付着を防止)

4 吊り下げない(リップの変形・損傷防止)。
5 洗浄には白灯油を使用する。
<注意>
研磨剤入りクリーナ・溶剤などは、ゴム材料に悪影響を及ぼす



3) 取付け

表3に取付けの注意事項を示します。

表3 取付けの注意事項

No. 主な注意事項 備考
1 取付け前に、
・オイルシールが汚れていないか、
・異物が付着していないか、
・損傷がないか を確認する。
異物のかみ込み防止
2 初期潤滑剤を充填(塗布)する。
・リップには、清浄な潤滑油
・主リップと補助リップとの間には清浄なグリース(図2参照)
推奨グリースは、次の項を参照
リップの摩耗大の防止
3 主リップと補助リップとの間に充填(塗布)する推奨グリース:
・柔らかい(ちょう度番号が小さい)
・温度によるちょう度変化が小さい
・使用温度範囲が広い
・リチウム系グリース
<注意>
ゴムが変質・硬化するグリースとの組合せがある
例1:"シリコーンゴム"と
"シリコーングリース"
例2:"ふっ素ゴム"と
"ウレア系グリース"
4 低温下での取付け時には、オイルシールを暖めて、リップの柔軟性を回復させて取付ける。
5 軸表面の傷の発生防止には、
部品がしまりばめで軸に取付けられる構造の場合には、リップ接触面の軸寸法を部品の内径よりも0.2 mm程度小さくする(図3参照)。
リップと軸との異常な接触防止
6 プレス圧入によるハウジング穴への取付け時には、
圧入治具を用い はめあい面にかじりなどの損傷を与えず、軸に対して垂直に取付ける(図4参照)。
はめあい面の損傷防止
外周ゴムのオイルシールの浮き上がりの防止
7 軸にスプライン、キー溝、穴がある場合には、
・保護治具を用いる(図5参照)
・保護治具を用いることができない場合
スプライン、キー溝のエッジ部を丸めて、その部分にグリースを十分に塗布して注意深く取付ける。
オイルシールが軸の上を滑るときのリップの損傷防止
8 長い軸を取付ける場合、
または、重いハウジングを取付ける場合には、
ガイド治具を用いて、オイルシールと軸の中心を合わせ、オイルシールの一部に軸が当たっての損傷を防止する(図6参照)。
軸との接触による損傷防止
9 オイルシールを取外した場合には、新しいオイルシールとスペーサを使用し、リップ先端が前に使用したリップ痕跡と重ならないようにする(図7参照)。 リップと軸との異常な接触防止





column_04_03_2.jpg図2 補助リップ付きシールの潤滑




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図3 しまりばめ の部品が軸表面上を通過する構造




column_04_03_4.jpg図4 オイルシールを圧入する治具




column_04_03_5.jpg図5 保護治具(スプライン、キー溝用)




column_04_03_6.jpg図6 ガイド治具(長い軸を取り付ける場合)




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図7 リップの接触跡を避ける取付け例




詳しいオイルシールの取扱いについては、こちらをご覧ください。
オイルシールの保管、取扱いおよび取付け

2. オイルシールの密封不具合の原因と対策

オイルシールの密封不具合としての密封対象物の漏れは、「リップからの漏れ」と「はめあい面からの漏れ」とがあります。
表4に「リップからの漏れ」および表5に「はめあい面からの漏れ」について、損傷とその外観を示します。

表4 損傷(リップからの漏れの場合)

No. 損傷 外観
1 リップ先端に傷 column_04_03_8.jpg
2 リップの反転 column_04_03_9.jpg
3 ばねの脱落 column_04_03_10.jpg
4 リップの硬化 column_04_03_11.jpg
5 リップの軟化

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6 軸の摩耗大 column_04_03_14.jpg
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7 リップの摩耗大 column_04_03_16.jpg
8 リップの偏摩耗 column_04_03_17.jpg
9 リップの面あれ、条痕 column_04_03_18.jpg
10 リップ腰部の裂け column_04_03_19.jpg
11 リップの変形

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ゴム硬化によるしめしろの減少

12 リップの面当たり column_04_03_21.jpg
13 リップの裂け column_04_03_22.jpg
14 リップにブリスタ column_04_03_23.jpg
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表5 損傷(はめあい面からの漏れの場合)

No. 損傷 外観
1 外径面にむしれ、かじり column_04_03_25.jpg
2 外周面に傷 column_04_03_26.jpg
3 オイルシールの変形 column_04_03_27.jpg
4 オイルシールの斜め取付け column_04_03_28.jpg
5 オイルシールの抜け column_04_03_29.jpg


表6および表7に、それぞれの場合の代表的な損傷の原因と対策を示します。



表6 損傷の原因と対策(リップからの漏れの場合)

No. 損傷 原因 対策
1

リップ先端に傷
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1) 軸端面取部のばり、かえり

2) 軸のスプライン、キー溝

3) 異物のかみ込み

4) 取扱不良

・ばり、かえりの除去

・保護治具を使用(図5参照)

・周辺部品の洗浄

・取扱いの改善
2

リップの硬化
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1) 使用温度が上昇してゴムの耐熱限界を超えた

2) 潤滑不足

3) 稼働中に大きな内圧が発生

・耐熱性に優れたゴム材料へ変更

・潤滑量、供給方法の改善

・耐圧シールの採用、または、ブリーザを取付けて圧力を低減
3

軸の摩耗大
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1) 異物のかみ込み

2) 化学的摩耗(高温、極圧添加剤による)

3) 潤滑不足

4) スティックスリップ

・異物侵入の防止機構を設置

・上昇防止の対策、潤滑剤の変更

・リップの予備潤滑など潤滑条件を改善(潤滑量、供給方法の改善)
4

リップの摩耗大
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過大な発熱

1) 潤滑不足

2) 仕様以上での運転

  a) 過大な周速

  b) 大きな内圧

・潤滑条件の改善

(機器の構造変更)

・昇温要因の調査と対策

・耐熱性に優れたゴム材料に変更

・耐圧シールの使用またはブリーザを付けて内圧を低減
5

リップにブリスタ
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摺(しゅう)動面に侵入した高温油の凝集拡大

  1. a) 潤滑状態の悪化
  2. b) 軸表面の鏡面仕上げ

c) 大きな周速

d) 高緊迫力

・リップの潤滑条件改善

・軸表面仕上げの適正化

・オイルシールの低緊迫力化




表7 損傷の原因と対策(はめあい面からの漏れの場合)

No. 損傷 原因 対策
1 外周面に傷
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1) ハウジング穴にかえり

2) ハウジング穴に傷、鋳巣

・ばり、かえりを除去

・傷、鋳巣のないハウジングに交換
2 オイルシールの抜け
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1) ハウジング穴径大

2) オイルシールの外径小

3) オイルシールの圧入位置不適

4) ハウジングの変形

・ハウジング穴径の適正化

・オイルシール圧入位置の適正化

・ハウジングの剛性アップ

詳しい損傷の原因と対策については、こちらをご覧ください。

オイルシール密封不具合の原因と対策

オイルシールの密封不具合の原因解明および対策には、オイルシールのリップを観察するとともに軸の表面粗さ、異物の有無、潤滑などを総合的に調査し、判断することが重要です。


3. まとめ

今回のオイルシールの「取扱い、密封不具合の原因と対策」として、次のポイントをご紹介しました。

1) オイルシールの保管・取扱いおよび取付け時のごく些細(ささい)な不注意で、オイルシールの密封不具合が発生することがあります。そのため、保管、取扱いおよび取付け時には、十分に注意を払ってください。なお、オイルシールの取付け時には、治具を用いてください。

2) オイルシールの密封不具合としてのオイルシールからの漏れは、「リップからの漏れ」と「はめあい面からの漏れ」とがあり、外観に応じたさまざまな損傷があります。
密封不具合の原因解明および対策には、オイルシールのリップを観察するとともに軸の表面粗さ、異物の有無、潤滑などを総合的に調査し、判断することが重要です。

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