ベアリングコラム 初心者講座4 「ベアリングの保持器」
- ベアリング コラム
「ベアリングコラム」の読者の皆様
ベアリングコラム編集担当のWです。
ベアリングは多くの機械に使われ、力(荷重)を支えて回転を滑らかにする部品です。
今回は、ベアリングの保持器の役割と形式およびベアリングの性能への影響をご紹介します。
1.ベアリングの構造
図1に示すように、ベアリングを構成する部品には、
● 軌道輪(軌道盤)...リング状の部品
ラジアル軸受には内輪と外輪、スラスト玉軸受には、軸軌道盤とハウジング軌道盤があります。
● 転動体...軌道輪(軌道盤)の間を転がる部品(転動体には "玉"と"ころ"があります。)
● 保持器...転動体どうしが接触しないように一定の間隔に保つ部品があります。
図1 ベアリングの構造例
2.保持器の役割
保持器は隣り合う転動体を分けて配置し、転動体が滑らかに転がるようにする部品です。
保持器と転動体または軌道輪とは滑り接触しており、ベアリングに力がかかる場合、もしくは回転の加速・減速時には、
転動体が保持器を押したり引いたりして力を及ぼします(図2参照)。
保持器のポケット部では転動体と滑(すべ)り接触しており、この滑り接触が滑らかな回転を妨げる原因にもなります。
このため、ベアリングの使用条件に適した保持器の形式と材料を選ぶことが重要です。
図2 保持器の役割
保持器の役割についての詳しくは、
>> 保持器について - ベアリングの仕組みって?~摩擦を減らす構造と部品の役割~
>> 保持器の材料 - ベアリングコラム 初心者講座2 「ベアリングの材料(その1)」
をご覧ください。
3.保持器の形式
表1に代表的な保持器の形式と材料を示します。
保持器の形式は、従来からの①打抜き保持器、②もみ抜き保持器、③ピン形保持器があります。
また、近年では、④成形保持器が多く使われ、ベアリングの軽量化と性能向上が図られています。
表1 代表的な保持器の形式と材料
保持器の形式 | 特長 | 適用材料 | ||||
金属 | 合成 樹脂 |
|||||
鋼板 | 炭素鋼 | 黄銅 | ||||
① | 打抜き保持器 (「プレス保持器」 ともいいます) |
金型でプレス加工 | ✔ | |||
② | もみ抜き保持器 | 金属・樹脂の塊を機械加工 | ✔ | ✔ | ||
③ | ピン形保持器 | 中空ころの中心の穴を通る ピンがリング状の板に固定 |
✔ | |||
④ | 成形保持器 | 樹脂を金型に流し込む加工 | ✔ |
ベアリングの形式ごとに、多くの種類の保持器があり、保持器の形状の特長を表す名称で呼ばれることがあります。
次に、主なラジアルベアリングについて、ベアリング形式ごとの代表的な保持器の形式と形状をご紹介します。
1)深溝玉軸受
小形の深溝玉軸受には、図3に示す打抜き保持器が多く使われます。
その形状から波形保持器ともいい、リベットによって二つの波形保持器が結合されています。
図3 深溝玉軸受用打抜き保持器(波形保持器)
中形の深溝玉軸受には、図4に示すもみ抜き保持器が使われます。
リベットによって二つのもみ抜き保持器が結合されています。
図4 深溝玉軸受用もみ抜き保持器
近年では、小形の深溝玉軸受をはじめとする多くのベアリングには、図5に示す合成樹脂製の成形保持器が多く使われ軽量化などのベアリングの性能向上が図られています。
図5 深溝玉軸受用成形保持器
2)アンギュラ玉軸受
アンギュラ玉軸受には、図6に示すもみ抜き保持器が多く使われます。
図6 アンギュラ玉軸受用もみ抜き保持器
複列アンギュラ玉軸受には、図7に示すS形保持器が使われます。
なお、S形保持器は、複列深溝玉軸受にも使われます。
図7 複列アンギュラ玉軸受用打抜き保持器(S形保持器)
3)自動調心玉軸受
自動調心玉軸受には、図8に示す菊形保持器、または図9に示すあおい形保持器が使われます。
図8 自動調心玉軸受用打抜き保持器(菊形保持器)
図9 自動調心玉軸受用打抜き保持器(あおい形保持器)
また、近年では、自動調心玉軸受には図10に示す成形保持器も使われます。
図10 自動調心玉軸受用成形保持器
4)円筒ころ軸受
小形の円筒ころ軸受には、図11に示す打抜き保持器が使われます。
図11 円筒ころ軸受用打抜き保持器
中形の複列円筒ころ軸受には、図12に示すもみ抜き保持器が使われます。
図12 複列円筒ころ軸受用もみ抜き保持器(一体形保持器)
大形の円筒ころ軸受には、図13に示すピン形保持器が使われることがあります。
図14に示すように、ピン形保持器は中空ころの中心の穴を通るピンがリング状の板に固定され、多くのころ数を組み込むことができます。
図13 四列円筒ころ軸受用ピン形保持器
図14 ピン形保持器の拡大部
5)円すいころ軸受
円すいころ軸受には、図15に示す打抜き保持器が多く使われます。
その形状から、かご(籠)保持器ともいいます。
図15 円すいころ軸受用打抜き保持器(かご形保持器)
大形の円すいころ軸受では、図13および図14に示すピン形保持器が使われることがあります。
6)自動調心ころ軸受
自動調心ころ軸受の打抜き保持器には、図16に示す打抜き保持器が使われます。
図16 自動調心ころ軸受用打抜き保持器
自動調心ころ軸受のもみ抜き保持器には、図17に示す一体形もみ抜き保持器、または図18に示す くし形もみ抜き保持器が使われます。
図17 自動調心ころ軸受用もみ抜き保持器(一体形)
図18 自動調心ころ軸受用もみ抜き保持器(くし形保持器)
4.保持器のベアリングの性能の影響
ベアリングに力がかかる場合または回転の加速・減速時には、転動体が保持器を押したり引いたりして力を及ぼします。
そのため、大きな力がかかるまたは回転の加減速が激しい使用条件では、保持器の強度が大きい金属製のもみ抜き保持器を使用し保持器の破損を防ぎます。
また、高速回転する工作機械用ベアリングには、強度があり軽量で摩擦の少ない合成樹脂製の成形保持器が使われます(図19および図20参照)。
図19 工作機械用アンギュラ玉軸受用成形保持器
図20 工作機械用円筒ころ軸受用成形保持器
工作機械用ベアリング用の成形保持器について、詳しくはこちらをご覧ください。
5.まとめ
1)保持器は隣り合う転動体を分けて配置し、転動体が滑らかに転がるようにする部品です。
2)ベアリングに力がかかる場合または回転の加速・減速時には、転動体が保持器を押したり引いたりして力を及ぼします。
3)このため、ベアリングの形式ごとに多くの種類の保持器から、ベアリングの使用条件に適した保持器の形式と材料を選ぶことが重要です。
次回の「ベアリングコラム 初心者講座」もご期待ください。
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