材料と潤滑剤を工夫したベアリング ~身近なところで使われるベアリング~
- ベアリング コラム
これまでのコラムでご紹介したように、ベアリングは様々な機械に使われ、回転する軸を支(ささ)え、より滑らかに回転することを助けています。
近年は科学技術の進歩に伴って機械の性能が大幅に向上し、また多くの新しい機械が生み出されています。これらの機械のなかには、従来からの一般的なベアリングではなく、「材料と潤滑剤を工夫したベアリング」が使われています。
今回のコラムでは、「快適な暮らし」、「健康な暮らし」、そして「心身共に豊かな暮らし」をテーマに、私たちの暮らしを支える「材料と潤滑剤を工夫したベアリング」をご紹介します。
1.材料と潤滑剤を工夫したベアリングとは?
「材料と潤滑剤を工夫したベアリング」とはどのようなものでしょうか?
一般的なベアリングの部品には金属材料が使われ、また潤滑剤として潤滑油またはグリースが使われています。
しかし、これらの一般的なベアリングは
- 電気が発生する
- 磁力が発生する
- 酸やアルカリなどによって腐食しやすい
などの環境で使われると、
すぐに壊れたり、滑らかな回転ができないようになります。
ジェイテクトでは、このような環境でも使うことができるように、材料と潤滑剤を工夫したベアリングを、「特殊環境用軸受(EXSEVシリーズ)」として提供しています。詳しくはEXSEVシリーズのページもご覧ください。
※EXSEVはジェイテクトの登録商標です。
代表的な材料と潤滑剤を工夫したベアリングをご紹介します。
2.「快適な暮らし」を支える - エアコン(空調機)用ベアリング
図1 エアコンの室外機
エアコンの室外機には、空気を部屋の外に送り出すためにファンが取付けられており、ベアリングはこのファンを支えています。
近年増加しているモータの回転速度を自在に制御する(インバータ)モータでは、その特性上、作動中に高周波電流による電圧が発生します。
電圧が蓄積され一定量を超えると、ベアリングの内部に電流が通って、ベアリングが故障することがあります。この現象を「電食」といいます。
電食について詳しくは、次のページをご覧ください。
このため、絶縁性能に優れた(電流を通しにくい)セラミックスを玉(転動体)に使ったベアリングが使われます。
図2 室外機ファン用ベアリング
また、セラミックベアリングはインフラ関連施設や病院などで使用される重要な設備機器用モータで使われ、突発的な設備の故障を防いでいます。
安定した絶縁性能!電食に強い新セラミックボールベアリングが、長寿命製品を実現
ジェイテクトは、世界で初めてセラミックベアリングを実用化しました。絶縁性能に優れたセラミックベアリングは、多くの重要設備が安定して稼働することに役立っています。
1984年、世界で初めてセラミックベアリングを実用化信頼ある耐食性で溶液中でも使用可能に
3.「健康な暮らし」を支える- 医療機器用ベアリング
図3 MRI(磁気共鳴診断装置)
図4 MRI用モータ
高齢化が進むに従って健康への関心が高まり、世界中で医療機器が増加しています。
MRI(磁気共鳴診断装置)は、強い磁気の力を利用して臓器や血管を撮影して、身体の内部を検査します。
一般的なベアリングをMRIの強い磁気のもとで使用すると、磁場が乱れ精密な検査ができません。また、ベアリングが滑らかに回転しなくなります。
このため、強い磁気の影響を受けないベアリングが、MRI用に使われます。
図5 MRIモータ用セラミックベアリング
ベアリングの軌道輪および玉(転動体)には磁気の影響を受けにくいセラミックス、保持器には潤滑性能に優れた樹脂が使われ、精密な医療検査に役立っています。
4.「心身共に豊かな暮らし」を支える - スケートボードベアリング
プロスケーター / 田中陽 選手
2020年に開催される東京オリンピックでは、スケートボードが初めて競技に採用されました。
オリンピック選手が使うスケートボードには、選手の要望を取り入れて新たに開発したベアリングが使われています。
スケートボードには、4つの車輪にそれぞれ2個のベアリング(合計8個)が使用されます。
図6 スケートボードの車輪
玉にセラミックスを使い、軌道輪と保持器とに特殊表面処理を施したベアリングが組み込んだスケートボードは、「軽く回る」、「滑らかに回る」、「乗り心地」といったフィーリングが向上します。また、競技終盤までスピードが落ちにくく、より難易度の高い技に挑戦することが可能となります。その結果、高難易度技「バックサイドヒールフリップインディ」の成功につながっています。
図7 インラインスケートボード用ベアリング<セラミック玉を使用したベアリング>
まとめ
私たちの生活の中で使われる身近な機械にも、一般的なベアリングでは十分に性能が発揮できない場合があります。
これは私たちの日常生活がたくさんの高度な機械に支えられているからです。
このためベアリングも、それに対応するために常に工夫され、開発され続けています。
私たちの日常を支えるために、ベアリングも常に進化し続けているのです。
次回のコラム
今回で「ベアリングの基本」のお話を終わります。次回からベアリングの選び方について解説します。
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