ベアリング
コラム
特殊環境用ベアリング(EXSEVⓇ)の選び方(その3)~特殊性能ベアリング~
- #5 特殊環境用ベアリング(EXSEVⓇ)の選び方
本コラムの特殊環境用ベアリング(EXSEVⓇ)の選び方では、
(その1)では特殊環境用ベアリングに用いられる「材料」と「潤滑剤」を、
(その2)では特殊環境に適応するベアリングの仕様をご紹介しました。
特殊環境用ベアリング(EXSEVⓇ)の選び方(その1)~材料と潤滑剤~
特殊環境用ベアリング(EXSEVⓇ)の選び方(その2)~クリーン、真空、高温および腐食環境用~
今回は、特殊性能(非磁性、絶縁および高速回転)が要求されるベアリングの選び方のポイントをご紹介します。
なお、特殊環境用ベアリングとしてボールベアリングが多く使用されるため、本コラムではボールベアリングを例としてご紹介します。
また、低トルク性能を活かしたセラミックベアリングの事例もご紹介します。
1. 非磁性ベアリングの仕様
超電導関連、半導体製造装置あるいは医療用検査機器(図1参照)などに用いるベアリングのなかには、磁場内で使用されるものがあります。
図1 非磁性ベアリングが使われるMRI(磁気共鳴診断装置)
一般ベアリング(*)をこのような環境で使用すると磁場を乱したり、ベアリングの回転トルクが大きく変動することがあるため(図2参照)、非磁性のベアリングが要求されます。
(*)一般ベアリングとは、軌道輪と転動体の材料に高炭素クロム軸受鋼を用いたベアリングをいいます。
図2 磁場内でのベアリングの回転トルク
非磁性材料としては、ベリリウム銅が多用されてきましたが、近年では環境負荷物資であるベリリウムを含んでいるため使用を控える傾向があります。
ジェイテクトでは非磁性ステンレス鋼を軌道輪に、セラミックスを転動体に用いた組合せセラミックベアリングあるいは総セラミックベアリングをご提供しています。
表1に、非磁性組合せセラミックベアリングの仕様を示します。
表1 非磁性組合せセラミックベアリングの仕様
非磁性組合せ セラミックベアリング |
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掲載図 | 図3 | |
特長 | 材料 | 非磁性ステンレス鋼 |
潤滑 | 高分子系固体潤滑剤 | |
外輪 | 非磁性ステンレス鋼 | |
内輪 | 非磁性ステンレス鋼 | |
玉 | 窒化けい素 | |
保持器 | ふっ素樹脂 | |
シールド | なし | |
潤滑 | 潤滑剤 | ふっ素系高分子 |
部位 | 保持器 |
図3 非磁性組合せセラミックベアリング
非磁性ベアリングについて、詳しくはこちらをご覧ください。
非磁性軸受
2. 絶縁ベアリングの仕様
電動機や発電機などに使用されるベアリングの損傷の一つに、電食という現象があります。電食とは、回転中のベアリング内部を電流が通過したとき、転がり接触部分の非常に薄い油膜を通してスパークが発生し、接触部の表面が局部的に溶融する損傷をいいます(図4参照)。
図4 ベアリングの電食
電食の対策として、ベアリングに電流を通過させないようにバイパスを設けるか、またはベアリング自体が電流を流さないように絶縁ベアリングを用いる方法があります。
セラミックスは優れた絶縁性能をもつことから、転動体にセラミックスを用いた組合せセラミックベアリングによって絶縁ベアリングとすることができます(図5参照)。
図5 絶縁ベアリング(組合せセラミックベアリング)
絶縁ベアリングについて、詳しくはこちらをご覧ください。
絶縁軸受
3. 高速回転ベアリングの仕様
軸受鋼に比べ低密度のセラミックスを転動体に用いた組合せセラミックベアリングは、高速回転ベアリングとして適しています。 これは転動体の質量が軽くなることによって、ベアリング回転時の転動体に生じる遠心力やジャイロモーメントによる滑(すべ)り現象が低減できるためです(図6参照)。
図6 転動体の遠心力
高速回転性能に優れる組合せセラミックベアリングは、多くの工作機械の主軸(図7および図8参照)に用いられています。
図7 工作機械の主軸
図8 工作機械主軸用ベアリング(組合せセラミックベアリング)
また、自動車では、ターボチャージャ(図9および図10参照)に、組合せセラミックベアリングが用いられています。
図9 ターボチャージャ
図10 ターボチャージャ用ベアリング(組合せセラミックベアリング)
高速回転ベアリングについて、詳しくはこちらをご覧ください。
高速軸受
4. セラミックベアリングの低トルク性能
特殊環境用および特殊性能が要求される場合に、セラミックベアリングが使用されることをご紹介いたしました。
さらに、セラミックベアリングの特長である低トルク(より小さな力で回転する)性能を活かした事例についてもご紹介します。
1) スケートボード用ベアリング
スケートボード用のベアリングには、「軽く回転すること」と「選手の感性やフィーリング」が要求され、低トルク性能に優れるセラミックベアリングによってこの要求に応えています。 その結果、スケートボード競技での「スピードが出る」「高く飛べる」「技が決まりやすい」に貢献しています。
図11 スケートボード用ベアリング(組合せセラミックベアリング)
2) 競技用自転車
組合せセラミックベアリングが競技用自転車の重要部品であるホイールに用いられ(図12および図13参照)、自転車のスピード性能の向上と快適な走行に貢献しています。
図12 競技用自転車のホイール
図13 組合せセラミックベアリング
2021年世界一の走りに貢献!~競技自転車ホイール用ベアリングの開発
その他の低トルク用セラミックベアリングの事例は、こちらをご覧ください。
セラミックボールを使用することで低トルクを実現
5. まとめ
今回は、特殊性能(非磁性、絶縁および高速回転)が要求されるベアリングの選び方のポイントをご紹介しました。
1) | 非磁性ベアリングは、非磁性ステンレス鋼を軌道輪に、セラミックスを転動体に用いた組合せセラミックベアリングあるいは総セラミックベアリングを選びます。 |
2) | 絶縁ベアリングには、転動体に絶縁性に優れるセラミックスを用いる組合せセラミックベアリングが適しています。 |
3) | 高速回転ベアリングには、高速回転時の転動体に生じる遠心力や滑り現象を減少できるセラミックスを転動体に用いた組合せセラミックベアリングが適しています。 |
4) | さらに、セラミックベアリングは低トルク(より小さな力で回転する)性能が必要とされる場合にも適しています。 |
なお、ジェイテクトでは特殊環境用ベアリングを選ぶツールをご提供しておりますので、ぜひご活用ください。
特殊環境用ベアリングの選定ツール
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