ベアリング
コラム
鉄鋼・産業設備用ドライブシャフト~概要、点検と損傷事例~
- ジェイテクトのご提案商品講座
回転する機械には、多くの形式のベアリングとオイルシールが使われます。
本コラムの最後に、これらの損傷事例をご紹介しておりますので、合わせてご覧ください。
鉄鋼および産業設備用に、ジェイテクトは動力を機械に伝えるドライブシャフトを製造・販売しています。
ジェイテクトのカタログ『鉄鋼・産業設備用ドライブシャフト』に鉄鋼・産業設備用ドライブシャフトを掲載していますが、カタログには専門用語が多く使われ、敬遠される方も多いように思われます。
そこで本コラムでは、鉄鋼用を例にとって、ドライブシャフトの概要、点検および損傷事例をご紹介します。
<カタログ「鉄鋼・産業設備用ドライブシャフト」>
1. ドライブシャフトとは
ドライブシャフトとは、原動機の動力を機械に伝える回転軸です。
一般に限られた機械のスペースの中に、ドライブシャフトは設置されます。
この限られたスペース内において、駆動軸(入力軸)と従動軸(出力軸)をフレキシブル(自由自在)に連結して原動機からの動力を滑らかに伝えるために、ドライブシャフトには図1に示すユニバーサルジョイント(十字軸タイプ自在継手ともいいます。)が用いられています。
a) 駆動軸と従動軸との連結 | b) 構造 |
図1 ユニバーサルジョイント
さらに、1つのユニバーサルジョイントには4個の転がり軸受からなるクロスベアリングを使用しており(図2参照)、低摩擦でトルク損失を最小限に抑えることができます。
図2 クロスベアリングの構造
2. ドライブシャフトの構成部品
代表例として、図3に鉄鋼圧延機に用いられるドライブシャフトを、表1にそれを構成する部品について説明します。
図3 鉄鋼圧延機用ドライブシャフト
表1 ドライブシャフトの構成部品
番号 | 部品名称 | 説明 |
① | クロスベアリング | 十字形の軸とそれぞれを支持する4個の転がり軸受で構成されています。 |
② | ベアリング固定ボルト | クロスベアリングとその相手部品との締結に用います。 |
③ | スプラインスリーブ/シャフト | スプライン穴・軸を有して取付け長さの調整が可能です。 |
④ | スプラインカバー | スプラインの防じん(塵)と防水性を高めます。 |
⑤ | フランジヨーク | おもに駆動装置との連結に用います。 用途に応じてさまざまな形式の継手方式があります。 |
⑥ | フィッティングヨーク | おもに機械・原動機との連結に用います。 用途に応じてさまざまな形式の継手方式があります。 |
ドライブシャフトの形式は、クロスベアリングの形状によって分類され、表2に形式と特長を示します。
表2 ドライブシャフトの形式と特長
形式 | 特長 | 代表的な 構造 |
ブロックタイプ | 超重荷重用で、水・塵埃(じんあい)がかかる 過酷な雰囲気でも使用可能です。 |
図4 |
図4 ブロックタイプ
3. ドライブシャフトの選び方
機械の目的に適合するよう①強度、②寿命、③作動角(図1参照)および④寸法に応じて、ドライブシャフトを選びます。
ドライブシャフトの選び方について、詳しくはこちらをご覧ください。
<カタログ「鉄鋼・産業設備用ドライブシャフト」ドライブシャフトの選定>
4. ドライブシャフトのメンテナンスと点検方法
ドライブシャフトを長く安心してご使用いただくためには、定期点検が必須です。
1)定期点検
定期点検には、グリース給脂とクロスベアリング固定ボルトの締付トルクがあります。
A)グリース給脂
図5に示す①クロスベアリングと②スプライン部に、給脂間隔(表3参照)と給脂量を守って同じ銘柄のグリースを給脂してください。なお、給脂量とグリースの銘柄については、JTEKTにご照会ください。
<注意> 給脂間隔、給脂量を守らず、また、異なるグリースを給脂すると、ドライブシャフトの早期損傷につながります。 |
図5 グリースの給脂位置
表3 定期給脂の周期
設備 | 定期給脂の周期 |
熱間圧延機 | 1か月ごと |
冷間圧延機 | 1か月ごと |
その他の設備 | 3か月ごと |
B)締付トルクの点検
表4に示す周期でベアリング固定ボルト(クロスベアリングを固定するボルトとフランジ固定用ボルト)の点検を行います。
表4 ベアリング固定ボルトの点検
設備 | 点検の周期 |
初期点検 | 1週間後、1か月後 |
定期点検 | 6か月ごと |
ベアリング固定ボルトの点検では、次を確認します。
・ベアリング固定ボルトの緩(ゆる)み または回り止め(図6参照)の破損
a) 1本ボルト回り止め | b) 3本ボルト回り止め |
図6 ベアリング固定ボルトの回り止め
・ハンマリングもしくは目視でのベアリング固定ボルトの伸び(図7)
図7 ベアリング固定ボルトの伸びの確認
ベアリング固定ボルトの緩め・締付方法は、次の手順で行ってください。
・チェーントングなどの治具でドライブシャフトを固定します(図8参照)。
・ねじ部と頭部座面にグリースを少量と塗布してから、ベアリング固定ボルトを締め付けます。
・レンチ、張力計などを用いて、規定のトルクにてベアリング固定ボルトを締め付けます(図8参照)。
<注意> 規定の締付トルクで締め付けていない場合、ベアリング固定ボルトの早期損傷につながります。 |
図8 ドライブシャフトの固定方法
2)分解点検
設備の長時間停止や重大事故を防止するために、鉄鋼圧延機用ドライブシャフトでは稼働後1年ごとを目安に主要部品(図9及び図10参照)の分解点検を行います。
分解点検時の確認内容を表5に示します。
図9 分解点検を行う主要部品
図10 クロスベアリング部の主要部品(クロスベアリング、ベアリング固定ボルト、ヨーク)
表5 主要部品の分解点検
部品 | 点検箇所 | 損傷の確認 |
クロスベアリングの クロス |
圧痕、摩耗、剥離、焼付き、 クラック、打ちきず、さび など |
|
クロスベアリングの ベアリングカップ |
||
ベアリング固定 ボルト |
ボルトの曲がり、伸び、 クラック、さび など |
|
ヨーク | クラック、打ちきず、さび など (特にクロスベアリング取付部と フランジ取付部) |
|
フィッティングヨーク (小判穴ヨーク) |
摩耗、かじり、クラック など | |
スプラインスリーブ/シャフト |
ドライブシャフトのメンテナンスと点検方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
<カタログ「鉄鋼・産業設備用ドライブシャフト」、ドライブシャフトのメンテナンス、点検方法>
3)ドライブシャフトの損傷事例
主要部品ごとのドライブシャフトの損傷事例、要因、対策または処置を、表6~表10と図12~図20に示します。
損傷が認められる場合には、適切な対策が必要です。
表6 クロスベアリングの損傷事例
部品 | 損傷事例 | 図 | 要因 | 対策 |
クロスベアリングの クロス |
軌道面根元部の剥離 |
図11 |
・潤滑不良 | ・定期的なグリース給脂 |
軌道面先端部の剥離 | 図12 | ・長時間使用による材料疲れ | ・異径ころの採用 図13参照 |
|
軌道面の圧痕 | 図14 | ・過大な負荷の作用 | ・使用条件の見直し ・適切な荷重の負荷 |
|
クロスベアリングの ベアリングカップ |
軌道面の剥離 | 図15 | ・潤滑不良 | ・定期的なグリース給脂 |
図11 クロス軌道面根元部の剥離
図12 クロス軌道面先端部の剥離
図13 異径ころの採用による均等荷重
図14 クロス軌道面の圧痕
図15 ベアリングカップ軌道面の剥離
表7 ベアリング固定ボルトの損傷事例
部品 | 損傷事例 | 図 | 要因 | 対策 |
ベアリング固定 ボルト |
ボルトの折損 (平面的破面形状) |
図16 | ・ボルトに軸力の作用なし | ・規定の締付トルクで 締め付ける ・ベアリングカップ、 ヨークの取付面の メンテナンス |
ボルトの折損 | 図17 | ・過大な曲げ応力の負荷 | ・使用条件の見直し ・適切な荷重負荷 ・曲げ応力の低減 |
図16 ベアリング固定ボルトの折損(平面的破面形状)
図17 ベアリング固定ボルトの折損
表8 ヨークの損傷事例
部品 | 損傷事例 | 図 | 要因 | 対策 |
ヨーク | キー溝の陥没 | 図18 | ・過大な負荷の作用 | ・使用条件の見直し ・適切な荷重の負荷 |
図18 ヨークのキー溝の陥没
表9 フィッティングヨーク(小判穴ヨーク)の損傷事例
部品 | 損傷事例 | 図 | 要因 | 処置 |
フィッティングヨーク (小判穴ヨーク) |
小判穴の摩耗 |
図19 |
・小判穴の入口部および奥の摩耗 ・トルク伝達面の腐食摩耗による過大すきま ・長時間使用によるトルク伝達面の摩耗 |
接触面の硬化 肉盛り補修 |
図19 フィッティングヨーク(小判穴ヨーク)の摩耗
表10 スプラインの損傷事例
部品 | 損傷事例 | 図 | 要因 | 処置 |
スプラインスリーブ/シャフト | スプライン部の摩耗 | 図20 | ・長時間使用によるトルク伝達面の摩耗 | 軽度の場合 再使用可 重度の場合 新品に交換 |
図20 スプラインスリーブのスプライン部の摩耗
ドライブシャフトの損傷事例について、詳しくはこちらをご覧ください。
<カタログ「鉄鋼・産業設備用ドライブシャフト」:ドライブシャフトの損傷事例>
なお、ジェイテクトでは大形ドライブシャフトの点検・補修を受け付けておりますので、ご相談ください。
5. まとめ
今回は、鉄鋼・産業設備用ドライブシャフトの概要、点検および損傷事例をご紹介しました。
1) | ドライブシャフトにはユニバーサルジョイント(十字軸タイプ自在継手)が用いられ、原動機の動力を機械に滑らかに伝えます。 |
2) | ドライブシャフトを長く安心してご使用いただくためには、定期点検が必須です。定期点検には、グリース給脂とクロスベアリング固定ボルトの締付トルクとがあり、ジェイテクトの推奨に従ってください。 |
3) | 鉄鋼設備用ドライブシャフトでは、主要部品の分解点検を行います。この分解点検にて確認された損傷には適切な処置と対策を行い、設備の停止や重大事故を防止してください。 |
4) | ベアリングとオイルシールの損傷事例についてもご覧ください。 ベアリングの故障(その1)~ベアリングの故障と損傷~ ベアリングの故障(その2)~ベアリングの損傷とその原因・対策(前編)~ ベアリングの故障(その3)~ベアリングの損傷とその原因・対策(後編)~ オイルシール(その3)~オイルシールの取扱い、密封不具合の原因と対策~ |
鉄鋼・産業設備用ドライブシャフトに関する技術的なお問い合わせや、コラムに関するご意見・ご感想は、下記のお問い合わせフォームからご連絡ください。