潤滑剤

12-2-1 グリース

グリースとは、潤滑油を基油とし、これに増ちょう剤と呼ばれる親油性の強い固体を分散混和させて半固体状にした潤滑剤で、さらに、特定の性能を向上させるため、各種の添加剤を添加している。

(1) 基油

グリースの基油には、鉱油が多く用いられているが、低温流動性や高温安定性などの特殊性能が要求される場合には、ジエステル油、シリコーン油、ポリグリコール油、ふっ素油などの合成油も用いられている。
一般に低粘度基油のグリースは低温や高速の用途に適し、高粘度基油のグリースは高温や重荷重の用途に適している。

(2) 増ちょう剤

グリースの増ちょう剤には、リチウム、ナトリウム、カルシウムなどの金属石けん基が主として用いられている。ただし、用途によっては非金属石けん基(シリカゲル、ベントンなどの無機質及び尿素化合物、ふっ素化合物などの有機質)の増ちょう剤も用いられている。
一般に、グリースの機械的安定性、使用温度範囲、耐水性などの特性は増ちょう剤によって定まる。

(リチウム石けん基グリース)
耐熱性・耐水性・機械的安定性が良い。
(カルシウム石けん基グリース)
耐水性は良いが、耐熱性に劣る。
(ナトリウム石けん基グリース)
耐熱性は良いが、耐水性に劣る。
(非金属石けん基グリース)
耐熱性が良い。

表 12-3 各種グリースの特性

リチウムグリースカルシウムグリース
(カップグリース)
ナトリウムグリース
(ファイバグリース)
複合基グリース非金属石けん基グリース
増ちょう剤 リチウム石けん カルシウム石けん ナトリウム石けん リチウム複合石けん カルシウム複合石けん ベントン 尿素化合物 ふっ素化合物
基油 鉱油 合成油(ジエステル油) 合成油(シリコーン油) 鉱油 鉱油 鉱油 鉱油 鉱油 鉱油・合成油 合成油
滴点(℃) 170~190 170~230 220~260 80~100 160~180 250以上 200~280 - 240以上 250以上
温度範囲(℃) -30~+120 -50~+130 -50~+180 -10~+70 0~+110 -30~+150 -10~+130 -10~+150 -30~+150 -40~+250
速度範囲 中-高速 高速 低-中速 低-中速 低-高速 低-高速 低-中速 中-高速 低-高速 低-中速
機械的安定性 良-優 可-良 良-優 良-優 良-優
耐水性 不可 良-優 良-優
耐圧性 不可-可 良-優 良-優 良-優
備考 各種転がり軸受用として最も用途が広い。 低温特性、摩擦特性に優れる。
計器用や小形電動機用小径玉軸受に適する。
高温特性、低温特性に優れる。 低速・軽荷重の用途に適する。
高温での使用は不可。
水分があると乳化しやすい。
比較的高温で使用される。
機械的安定性と耐熱性に優れる。
比較的高温で使用される。
極圧添加剤を加えたグリースは耐圧性に優れる。
圧延機用軸受に使用される。
高温で、比較的荷重が大きい用途に適する。 耐水性、酸化安定性、熱安定性に優れる。
高温、高速の用途に適する。
耐薬品性、耐溶剤性に優れる。
250℃の高温でも使用できる。

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(3) 添加剤

グリースには使用目的に応じて、各種の添加剤が用いられている。

  • 極圧添加剤
    重荷重や衝撃荷重がかかる場合
  • 酸化防止剤
    長期間グリースを補給しない場合

その他、構造安定剤、さび止め剤、腐食防止剤などがある。

(4) ちょう度

ちょう度とはグリースの見かけの硬さを表わし、規定の金属製円すいが5秒間に自重で、グリース内に進入した深さ(mm)を10倍した数値で示す。従って、この数値が大きくなるほど軟らかいことがわかる。
表 12-4にグリースのNLGIちょう度番号、ちょう度及び使用条件との関係を示す。
(NLGI: National Lubricating Grease Institute)

表 12-4 グリースのちょう度

NLGI
ちょう度番号
ASTM(JIS)ちょう度
(25℃,60回混和)
使用条件・用途
0 355~385 集中給脂用
1 310~340 集中給脂用、低温用
2 265~295 一般用
3 220~250 一般用、高温用
4 175~205 特殊用途

(5) 異種グリースの混合

異種のグリースを混合すると、グリースの性質が変化するので、原則としては銘柄の異なるグリースを混合してはならない。
やむを得ない場合は同じ増ちょう剤のグリースを選べばよいが、その場合でも添加剤などの違いにより悪影響を及ぼすことがあるので、あらかじめ試験するなど注意が必要である。

表 12-5 JTEKT軸受用標準グリースの代表例

グリース名増ちょう剤基油外観ちょう度
60W
NLGI
ちょう度番号
使用温度範囲
用途例
不混和 混和
アルバニア 2 リチウム 鉱油 淡黄褐色 276 275 2 -10~100 自動車 ハンドルコラム
レアマックス AF-I ウレア 鉱油 淡黄色粘ちょう状 - 300 1-22) 0~150 ホイール(ハブユニット)
FS841 ふっ素樹脂 フロロシリコーン油 白色 - 290 2 -40~220 ファンカップリング
サンライト 2 リチウム 鉱油 黄褐色 - 280 2 -10~100 ユニバーサルジョイント(シェルタイプ)、ハンドルジョイント
ユニレックス N3 リチウムコンプレックス 鉱油 緑色 - 235 3 -10~130 クラッチレリーズ
W191 ウレア PAO1)、鉱油 淡黄色 247 275 2 -30~130 水ポンプ軸受
ダリナ 2 マイクロゲル 鉱油 こはく色 - 280 2 0~150 鉄鋼 コンベア
エマルーブ L ウレア 鉱油 淡褐色粘ちょう状 - 350 0-1 2) -10~200 連続鋳造機
パルマックス RBG 特殊複合リチウム 鉱油 黄色粘ちょう状 - 300 1-2 2) -10~150 圧延機ロールネック
4Bグリース カーボンブラック エーテル油 黒色 - 260 2-32) -30~250 ミニアチュア、
小径玉軸受
複写機(高温・導電性)、プリンタ(高温・導電性)
KZグリース ふっ素樹脂 ふっ素油 - 280 2 0~250 複写機(高温)、プリンタ(高温)
マルテンプ PSNo.2 リチウム 鉱油、エステル油 桃白色粘ちょう状 - 275 2 -40~100 モータ(低温用)
KVCグリース ウレア PAO1)、エステル 乳桃色 - 244 3 -30~150 モータ(高温用)、ロータリエンコーダ、ファンモータ(高温用)
SRグリース リチウム エステル油 淡褐色粘ちょう状 - 250 3 -40~130 ミニアチュア、
小径玉軸受、
自動車
モータ、ステッピングモータ、ファンモータ
センター軸受(プロペラシャフト用)、ハンドルコラム
KDLグリース ふっ素樹脂(PTFE) ふっ素油 白色 - 260 2-32) -30~200 半導体製造装置 高温用、クリーン用、真空用
KHD リチウム PAO1) 白色 - 199 4 -30~120 常温用、大気用
ネリタ 2858 リチウム 鉱油(XHVI) 黄褐色 - 279 2 -30~100 鉄道車両 車軸(ABU)
アラペン RB320 リチウム、カルシウム 鉱油 黄褐色 - 315 1 -30~90 車軸(一般)
イソフレックス NBU15 バリウム複合 エステル油 ベージュ 270 280 2 -40~100 工作機械主軸
シェル カシーダグリース RLS2 アルミニウムコンプレックス PAO1) 透明 - 280 2 -20~100 食品機械用
アルバニア EP2 リチウム 鉱油 褐色 282 276 2 -10~80 旋回座、自動車 ユニバーサルジョイント、キングピンスラスト アル
アルバニア 3 リチウム 鉱油 褐色 240 225 3 -10~100 農機具

〔注〕
1)PAO:ポリαオレフィン油
2)各ちょう度番号が示すちょう度範囲の間に属する。

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12-2-2 潤滑油

軸受の潤滑油には、酸化安定性及びさび止め性に優れ、油膜強度が高い高度精製鉱油が主に用いられているが、軸受の多様化にともない、各種の合成油も多く用いられている。また、これらには特定の性能を向上させるために各種の添加剤(酸化防止剤、さび止め剤、消泡剤など)が使用されている。表 12-6に各種潤滑油の特性を示す。
鉱油系潤滑油は JIS や MIL 規格で用途別に分類されている。

表 12-6 各種潤滑油の特性

潤滑油の種類高度精製鉱油主な合成油
ジエステル油シリコーン油ポリグリコール油ポリフェニール
エーテル油
ふっ素油
使用温度範囲(℃) -40~+220 -55~+150 -70~+350 -30~+150 0~+330 -20~+300
潤滑性
酸化安定性
耐放射能 不可 不可 不可-可 不可 -

〔潤滑油の選定〕

潤滑油の選定に際しては、軸受の運転温度において適正な粘度の油を選ぶことが最も重要である。
まず軸受形式別の適正動粘度を表 12-7より選び、次に使用条件による適正動粘度を表 12-8より選ぶ。この値を目安とすればよい。

潤滑油の粘度は低すぎると油膜形成が不十分となり、高すぎると粘性抵抗により発熱する。
一般には、荷重が大きくなるほど、また、運転温度が高くなるほど高粘度の潤滑油が用いられ、回転速度が高くなるほど低粘度の潤滑油が用いられる。
潤滑油の粘度と温度との関係を図 12-3に示す。

表 12-7 軸受形式による適正動粘度

軸受形式運転温度における適正動粘度
玉軸受円筒ころ軸受 13mm2/s以上
円すいころ軸受自動調心ころ軸受 20mm2/s以上
スラスト自動調心ころ軸受 32mm2/s以上

表 12-8 使用条件による適正動粘度

運転温度 dmn 適正動粘度(ISO粘度グレード又はSAE No.で示す)
軽荷重・普通荷重 重荷重・衝撃荷重
-30~0℃ 全範囲 ISO VG 15、22、46 (冷凍機油) -
0~60℃ 300000以下 ISO VG 46 (軸受油、タービン油) ISO VG 68 (軸受油、タービン油)
SAE 30
300000~600000 ISO VG 32 (軸受油、タービン油) ISO VG 68 (軸受油、タービン油)
600000以上 ISO VG 7、10、22 (軸受油) -
60~100℃ 300000以下 ISO VG 68 (軸受油) ISO VG 68、100 (軸受油)
SAE 30
300000~600000 ISO VG 32、46 (軸受油、タービン油) ISO VG 68 (軸受油、タービン油)
600000以上 ISO VG 22、32、46 (軸受油、タービン油、マシン油) -
100~150℃ 300000以下 ISO VG 68、100 (軸受油) ISO VG 100~460 (軸受油、ギヤ油)
SAE 30、40
300000~600000 ISO VG 68 (軸受油、タービン油) ISO VG 68、100 (軸受油)
SAE 30 SAE 30、40

〔備考〕

  1. a_129_001.pngD:呼び外径(mm)、d:呼び内径(mm)、n:回転速度(min-1)}
  2. 冷凍機油(JIS K 2211)、タービン油(JIS K 2213)、ギヤ油(JIS K 2219)、マシン油(JIS K 2238)、軸受油(JIS K 2239)をご参照ください。
  3. 運転温度が-30°C以下又は150°C以上の場合にはJTEKTに相談ください。
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図 12-3 潤滑油の粘度と温度との関係(粘度指数 100の場合)

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