1) 高炭素クロム軸受鋼
軌道輪(内輪・外輪)と転動体(玉・ころ)の材料としては、一般にJISで規定されている高炭素クロム軸受鋼が使われる。
その化学成分を『表 13-1 高炭素クロム軸受鋼の化学成分』に示す。
このうち、多く使用されるのはSUJ2であり、Mn量を多くしたSUJ3は焼入性がよいので、肉厚の厚い軸受に使われる。
SUJ5はSUJ3にMoを添加してさらに焼入性を良くしたものである。
小形・中形軸受には、SUJ2又はSUJ3を使用し、肉厚が厚い大形・超大形軸受には、主にSUJ5を使用している。
一般に、これらの材料は所定の形状に加工後、焼入れ・焼もどし処理を施し、57~64HRCの硬さにして使用する。
2) 浸炭軸受用鋼(はだ焼鋼)
軸受に衝撃荷重がかかる場合には、表面部は硬く、内部は柔かい方がよい。そして表面部は適切な炭素量とち密な組織及び浸炭深さで、内部は適切な硬さで細かい組織が得られるような材料が必要である。
この目的のための軸受材料としては、クロム鋼・ニッケルクロムモリブデン鋼などが使われる。
代表的な鋼種を『表 13-2 浸炭軸受用鋼の化学成分』に示す。
3) 標準 JTEKT仕様軸受鋼
一般に、材料中に含まれる非金属介在物が、軸受の転がり疲れ寿命に有害であることが知られている。
JTEKTでは、疲れ寿命に有害な非金属介在物の量を低減させるため、軸受鋼の化学成分を独自に設定している。
これにより、JTEKTの標準軸受は、JIS B 1518(及びISO 281)の対象である一般の軸受に比べて、およそ2倍の長寿命になっている。
これを反映し、JTEKT標準軸受の基本動定格荷重は、JIS B 1518(及びISO 281)で定められた動定格荷重の1.25倍の値としている。
なお、本総合カタログの特定用途軸受には、この標準JTEKT仕様軸受鋼は適用しませんので、これらの軸受の長寿命化のご要求がある場合は、JTEKTにご相談下さい。
4) その他
特殊な用途には、各使用条件に応じて、次に示す特殊熱処理を使用することもできる。
【非常に高い信頼性】
- SH軸受 *
JTEKTの開発した熱処理技術で、高炭素クロム軸受鋼に特殊熱処理を施し、表面硬度の向上及び圧縮残留応力の付与により、特に耐異物特性で高い信頼性を実現。 - KE軸受 **
JTEKTの開発した熱処理技術で、浸炭軸受用鋼に特殊熱処理を施し、表面硬度の向上及び残留オーステナイト量の適正化により、特に耐異物特性で高い信頼性を実現。
* Special Heat treatmentの略称
** Koyo EXTRA-LIFE Bearingsの略称
表 13-1 高炭素クロム軸受鋼の化学成分
規格 | 記号 | 化学成分(%) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
C | Si | Mn | P | S | Cr | Mo | ||
JIS G 4805 | SUJ 2 | 0.95~1.10 | 0.15~0.35 | 0.50 以下 | 0.025 以下 | 0.025 以下 | 1.30~1.60 | 0.08 以下 |
SUJ 3 | 0.95~1.10 | 0.40~0.70 | 0.90~1.15 | 0.025 以下 | 0.025 以下 | 0.90~1.20 | 0.08 以下 | |
SUJ 5 | 0.95~1.10 | 0.40~0.70 | 0.90~1.15 | 0.025 以下 | 0.025 以下 | 0.90~1.20 | 0.10~0.25 | |
SAE J 404 | 52100 | 0.98~1.10 | 0.15~0.35 | 0.25~0.45 | 0.025 以下 | 0.025 以下 | 1.30~1.60 | 0.06 以下 |
〔備考〕
高周波焼入れ用の材料には、上表の材料以外にも C 0.55~0.65%の含有量をもつ炭素鋼を使用する。
表 13-2 浸炭軸受用鋼の化学成分
規格 | 記号 | 化学成分(%) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo | ||
JIS G 4053 | SCr 415 | 0.13~0.18 | 0.15~0.35 | 0.60~0.85 | 0.030 以下 | 0.030 以下 | - | 0.90~1.20 | - |
SCr 420 | 0.18~0.23 | 0.15~0.35 | 0.60~0.85 | 0.030 以下 | 0.030 以下 | - | 0.90~1.20 | - | |
SCM 420 | 0.18~0.23 | 0.15~0.35 | 0.60~0.85 | 0.030 以下 | 0.030 以下 | - | 0.90~1.20 | 0.15~0.30 | |
SNCM 220 | 0.17~0.23 | 0.15~0.35 | 0.60~0.90 | 0.030 以下 | 0.030 以下 | 0.40~0.70 | 0.40~0.65 | 0.15~0.30 | |
SNCM 420 | 0.17~0.23 | 0.15~0.35 | 0.40~0.70 | 0.030 以下 | 0.030 以下 | 1.60~2.00 | 0.40~0.65 | 0.15~0.30 | |
SNCM 815 | 0.12~0.18 | 0.15~0.35 | 0.30~0.60 | 0.030 以下 | 0.030 以下 | 4.00~4.50 | 0.70~1.00 | 0.15~0.30 | |
SAE J 404 | 5120 | 0.17~0.22 | 0.15~0.35 | 0.70~0.90 | 0.035 以下 | 0.040 以下 | - | 0.70~0.90 | - |
8620 | 0.18~0.23 | 0.15~0.35 | 0.70~0.90 | 0.035 以下 | 0.040 以下 | 0.40~0.70 | 0.40~0.60 | 0.15~0.25 | |
4320 | 0.17~0.22 | 0.15~0.30 | 0.45~0.65 | 0.025 以下 | 0.025 以下 | 1.65~2.00 | 0.40~0.60 | 0.20~0.30 |