軸受の密封装置は、外部からの異物(ごみ、水分、金属粉など)の侵入防止と同時に軸受部分に保有する潤滑剤の漏れを防止するものである。密封装置が不完全であると、異物の侵入や潤滑剤の漏れにより、傷や焼付きなどの軸受損傷を引き起こす。
従って、密封装置の設計又は選定にあたっては、軸受の用途・使用条件に応じて、潤滑方法とともに慎重に検討する必要がある。
密封装置は、その構造により、非接触形と接触形とに大別され、次に示す条件を満足する必要がある。
- 異常な摩擦(発熱)を引き起こさないこと。
- 組立や分解などの保守が容易であること。
- 経済的なものであること。
14-4-1 非接触形密封装置
軸と接触することがなく、摩擦部分をもたない非接触形密封装置としては、油溝・フリンガ(スリンガ)・ラビリンスがある。
これらは小さな すきま 又は遠心力を利用したもので、特に高速・高温の用途に適している。
表 14-6 非接触形密封装置
(1)油溝
(a)
(b)
(c)
- 軸とハウジングカバーとの間の小さなすきまの部分に3本以上の溝を設けたこの密封装置は、グリース潤滑で低速運転の用途を除いては、通常、他の密封装置と併用することが多い。
- 油溝の中に ちょう度 150~ 200 程度のカルシウムグリース(カップグリース)を詰めておくと防じん効果が期待できる。
- 軸とハウジングのすきまは、できるだけ小さい方がよいが、通常、次に示す程度の値を採る。
軸径
50mm以下(0.25~0.4mm)
50mmを超え(0.5~1mm) - 油溝の推奨寸法を次に示す。
油溝の幅(2~5mm)
油溝の深さ(4~5mm)
(2)フリンガ(スリンガ)
(d)内側に設けたフリンガ
(e)外側に設けたフリンガ
(f)カバータイプフリンガ
(g)油切り
- フリンガは遠心力によって油やごみをはね飛ばし、かつ、空気の流れを起こし、ポンプ作用によって油の漏れやごみの侵入を防ぐもので、多くは他の密封装置と併用される。
- フリンガをハウジングの内側に設けると(d図)ポンプ作用は外側から内側に働くので、潤滑剤の漏れの防止に役立ち、外側に設けると(e図)逆向きに働くので、外側からの異物の侵入防止に役立つ。
- カバータイプフリンガ(f図)は遠心力によってごみやほこりを振り切るので、外部からの異物の侵入防止に役立つ。
- 油切り(g図)もフリンガの一種であり、軸とハウジングとのすきまに突起を設けたもので、遠心力を利用して潤滑剤の漏れを防止する。
(3)ラビリンス
(h)アキシアルラビリンス
(i)ラジアルラビリンス
(j)調心形ラビリンス
(k)グリース充填式アキシアルラビリンス
- ラビリンスは軸とハウジングとの間に凸凹状のすきま(迷路)をもたせた密封装置で、特に高速軸の油漏れ防止に適している。
- アキシアルラビリンス(h図)は組立てが容易なため、多く使用されているが、密封性能はラジアルラビリンス(i図)の方が良い。
- 調心形ラビリンス(j図)は、調心形軸受の場合に用いる。
- (i)や(j)はハウジング又はハウジングカバーを2つ割りにする必要がある。
- ラビリンスの推奨すきま値を次に示す。
軸径 ラジアル方向すきま アキシアル方向すきま 50mm以下 0.25~0.4mm 1~2mm 50mmを超え 0.5~1mm 3~5mm - ラビリンスのすきまにグリースを充填(k図)すれば、密封効果をさらに高めることができる。
14-4-2 接触形密封装置
この形式は、合成ゴム・合成樹脂・フェルトなどの先端を軸などの回転部と摩擦接触させて密封作用を行うもので、合成ゴムを用いたオイルシールが最も多く用いられている。
1)オイルシール
オイルシールは完成部品として、数多くの形式・寸法が標準化されており、JTEKTでは各種のオイルシールを製造している。
オイルシールの各部の名称と機能を『図 14-8 オイルシール各部の名称(参考)』及び『表 14-7 オイルシール各部の機能』に示す。
また、代表的な形式例を『表 14-8 主なオイルシール形式』に示す。
図 14-8 オイルシール各部の名称(参考)
表 14-7 オイルシール各部の機能
名称 | 機能 |
---|---|
リップ先端 | 回転軸と接触しながら流体の漏れを防止する。 (リップ先端と軸との間には、潤滑剤を塗布して、常に油膜がある状態にしておく。) |
主リップとばね | リップ先端に適正な緊迫力を保持させる。(安定した接触状態の保持)ばねは主リップの緊迫力を高め、また、その緊迫力を長期間保持させる。 |
外周面 | オイルシールをハウジングに固定すると同時に、はめあい面からの流体の漏れを防止する。(外周金属品と外周ゴム品がある。) |
金属環 | シールに強度を持たせる。 |
ダストリップ (補助リップ) |
外部からの異物の侵入を防止する。(主リップとダストリップとの間には、通常、グリースを充てんして使用する。) |
表 14-8 主なオイルシール形式
金属環付き | 補助金属環付き | 金属環なし | |
---|---|---|---|
ばね無し | ばね入り | ばね入り | |
- | |||
|
|
補助リップのないオイルシールは、図 14-9に示すように、使用目的に応じてリップの向きを変えて取付ける。
(a)内向き
(b)外向き
図 14-9 シールリップの方向と使用目的
外部にごみが多い場合や、水の侵入が予想される場合には、図 14-10のように2個のオイルシールを組合わせたり、ダブルリップのオイルシールを用いて、両リップの間にグリースを詰めておくとよい。
図 14-10 汚れた外部環境への組込み例
オイルシールは潤滑剤を密封するだけでなく、シール材料を検討することにより、アルコール類・酸・アルカリなどの化学薬品の密封にも使用することができる。
また、表 14-9に示すように、材料によって許容周速や使用温度範囲も異なるので、用途に応じて選定することができる。
表 14-9 オイルシールの許容周速と温度範囲
シール材料 | 許容周速(m/s) | 使用温度範囲(℃) |
---|---|---|
ニトリルゴム | 15 | - 40 ~+ 120 |
アクリルゴム | 25 | - 30 ~+ 150 |
シリコーンゴム | 32 | - 50 ~+ 170 |
ふっ素ゴム | 32 | - 20 ~+ 180 |
オイルシールの密封性能を十分発揮させるためには、オイルシールと接触する軸の材料・表面硬さ・表面粗さなどにも注意する必要がある。
表 14-10に軸の推奨条件を示す。
表 14-10 軸の推奨条件
材料 | 機械構造用鋼、低合金鋼、ステンレス鋼 |
---|---|
表面硬さ | 低速用途: 30HRC以上 高速用途: 50HRC以上 |
表面粗さ (Ra) | 0.2~0.6a (粗すぎると漏れや摩耗が生じやすい。細かすぎても油膜ができにくく、リップの焼付きの恐れが生じる。ら線状の研削痕があってはならない。) |
2)フェルトシール、その他
フェルトシールは古くから用いられてきたが、用途が次に示すように限られているので、合成ゴムを用いたオイルシールに変えていくことが望ましい。
- グリース潤滑の場合の軽い防じん
- 周速が 5 m/s 以下
その他、接触形密封装置にはメカニカルシール、Oリング、パッキンなどがある。
(JTEKTでは、『表 14-8 主なオイルシール形式』に示したオイルシールのほか、自動車用特殊シール・圧延機用大形シール・泥水シール・耐圧シール・ハウジング回転用外周シール・Oリングなど豊富なシール製品を製造しています。
詳細については、別途発行している専用カタログ「オイルシール&Oリング」をご参照ください。)